好熱菌を宿主としたランダム変異ライブラリから耐熱化酵素を容易にスクリーニングする手法を研究した。当初は高変異性好熱菌を用いたライブラリの構築を検討したが,転位因子が頻繁に転位することが見出され,この好熱菌で良質なライブラリを構築することは難しいことがわかった。そこで,プラスミドを電気穿孔法で効率よく導入できる好熱菌株を開発した。様々な条件を検討し,さらには制限修飾系の遺伝子を破壊することで,10^6 cfu/ug以上の効率でプラスミドを導入できる好熱菌形質転換系を確立した。さらに本株中で対象酵素を高生産するためのベクター系の開発にも成功した。スクリーニング法としては,前年度に引き続き,高温で利用可能な酵素タグを研究し,酵素の検出に利用するための新たな知見を得た。また平成30年度までの研究から,耐熱性酵素と非耐熱性酵素を生産する好熱菌の遺伝子発現パターンが違うことを見出していたが,本年度では相違する遺伝子を詳細に解析し,非耐熱性酵素を生産する好熱菌がエネルギー生産に関与する遺伝子を高発現していることを見出した。これは非耐熱性酵素の生産が好熱菌にエネルギー負荷を与えることを暗示する。実際に生育効率を調べたところ,耐熱性酵素を産生する好熱菌は,非耐熱性酵素を生産する好熱菌よりも生育が速かった。つまり,耐熱性酵素は好熱菌ライブラリを培養するだけで濃縮できる可能性が考えられる。いずれのスクリーニング法も,好熱菌を宿主としたランダム変異ライブラリから耐熱化酵素を容易にスクリーニングできるものと期待できる。
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