研究課題/領域番号 |
17K06927
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田島 誉久 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (80571116)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 融合タンパク質 / 低温菌 / 酵素触媒 / イタコン酸 / クエン酸 |
研究実績の概要 |
本年度は多段階変換反応を効率的に行うための酵素触媒の構築を行った。クエン酸を基質としてcis-アコニット酸を経由する2種類の酵素(アコニターゼとcis-アコニット酸脱炭酸酵素CAD)によるイタコン酸の生成反応をモデルとした。まず、二種類の酵素をそれぞれ発現させてシンプル酵素触媒による変換反応を行ったところ、化学量論的に高収率で変換反応を行うことができた。さらにこの変換反応を効率化するために異種酵素を種類と長さが異なる各種リンカーで接続した融合タンパク質を構築した。これらを低温菌Shewanella属細菌で発現させてシンプル酵素触媒を構築して変換反応を行ったところ、2回繰り返して用いたリンカーで接続した融合タンパク質では各酵素を混合したものに比べ2倍のイタコン酸生産量が得られた。そこで、これらの融合酵素を大腸菌で発現させて精製することで生化学的な知見を得ることとした。融合タンパク質および単独酵素はいずれも可溶性画分に主要成分として発現し、目的産物を精製することに成功した。異なる初発基質濃度で変換反応により得られたイタコン酸生成の初速度を用い、Lineweaver-Burk法により生化学的パラメーターであるミカエリス定数と最大反応速度を求めた。その結果、融合タンパク質において、ミカエリス定数の減少が見られ、変換反応を融合することにより基質親和性が向上したことが示された。その一方で今回はアコニターゼとCADを1:1で連結させたが、CADの割合を上げることが変換反応の向上に寄与する可能性が示唆された。さらに、リンカーの種類や長さによる違いの詳細な解析、融合させたことに依る各酵素への立体構造変換の影響を検討する必要性も示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クエン酸からイタコン酸を生成する反応系を低温菌シンプル酵素触媒において高収率で行うことに成功した。また、本研究の目的の一つである反応場を近接化することによる反応効率化を解析するために本年度は融合タンパク質の設計と構築を行った。まず、今回のモデル反応系であるイタコン酸生成酵素の融合タンパク質においてその発現と精製を行うことができた。次に、融合タンパク質と単独酵素の混合物による反応を比較することにより、融合タンパク質において基質親和性が向上することを見いだした。また、融合タンパク質を低温菌に発現させて構築したシンプル酵素触媒での変換反応においても生産量の向上が確認された。これにより、今年度は複数酵素を融合させて反応場を近接化させることで酵素としてもシンプル酵素触媒としても反応効率が向上する可能性が示された。以上のことより、本研究は当初の計画通り、反応場の改変による物質変換効率の改善を評価することができたことからおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度において複数酵素による低温菌シンプル酵素触媒での反応および融合タンパク質による反応効率向上に寄与する可能性が示されたが、さらなる向上とその基盤的解析を進めるべく、下記項目を実施する予定である。 [融合タンパク質の解析] リンカーの種類や長さが異なることで反応効率に違いが見られたことから、これらがどのように変換反応に影響したかを酵素の構造や多量体の形成について調べることにより差異を検証する。また、シンプル酵素触媒反応には中温での熱処理や反応温度に耐性があることが重要である。そこで各種融合タンパク質において熱安定性も評価する。 [酵素比を変えて融合させたタンパク質の構築とその評価] 複数酵素を律速段階なく反応させるためにはいずれのステップでも同じ流量となるように調製することが必要となる。そこで、酵素比を変えて融合させたタンパク質を構築し、それらの反応性を比較する。また、これらの融合比を任意に変えられるような系を構築して検証を深めたい。以上により、複数酵素による反応を効率化する基盤技術の開発を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品や旅費が当初見積りより使用額が若干少なかったため、次年度繰越が生じたが、試薬等の購入費として使用する予定である。
|