研究課題/領域番号 |
17K06928
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水本 博 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90346817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 分化誘導 / 三次元培養 / 細胞運命制御 |
研究実績の概要 |
①中空糸内三次元培養におけるヒトiPS細胞の分化誘導と内胚葉系前駆細胞の分離:中空糸を用いたヒトiPS細胞の分化誘導過程において、内胚葉前駆細胞の分離を行った。中空糸内にヒトiPS細胞を播種後、まず未分化維持用培地を用いて培養することにより、培養7日間において約10倍の細胞増殖が可能であった。引き続き、培養培地を分化培地へと変更し、細胞の自発的分化を誘導した。内胚葉系前駆細胞の代表的マーカーの発現について評価した結果、分化培地を用いた培養5日目においてその発現がピークとなることを見出した。この結果、比較的短期間で大量の内胚葉系前駆細胞を創出可能な培養条件を見出した。次に分化培養を行った細胞を中空糸から回収し、単層培養にて肝成熟化を試みた。遺伝子発現解析の結果、幾つかの肝細胞マーカーの発現が増加し、回収細胞中に内胚葉系前駆細胞が含まれていることと、それらの細胞集団が肝細胞への分化能を有している可能性が示唆された。 ②中空糸内三次元分化培養における中空糸径効果:中空糸内三次元分化培養を用いたヒトiPS細胞の分化誘導における中空糸径効果を調査した。この結果、中空糸径を変化させることにより、iPS細胞の増殖挙動が変化することが示された。さらに、種々の遺伝子発現解析により三胚葉への分化傾向を調査した結果、中空糸径が分化傾向に影響を与えることを見出した。以上の結果、内胚葉系への分化誘導に適切な中空糸径の条件を見出すことが出来た。 ③増殖因子徐放基材の開発:増殖因子固定化能を有するヘパリンをゼラチンに導入したヘパリン導入ゼラチンゲルの調製とその微粒子化に取り組んだ。ヘパリン導入ゼラチンゲルは架橋密度を制御することにより、固定化した増殖因子の徐放特性を制御できることを見出した。以上の結果、増殖因子徐放微粒子の作製条件を見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトiPS細胞の中空糸内三次元培養については、未分化培地を用いた前培養期間を設けることにより、iPS細胞の良好な増殖が可能であることを見出した。また、三次元培養による分化誘導を行うことにより、単層培養と比べて高効率に分化細胞を取得できることを見出し、細胞生産プロセスとしての有望性を見出している。また、分化誘導過程において細胞の分離を行い、その特性を評価した結果、肝細胞への分化能を有することが示された。さらに、分化誘導過程において、中空糸径がiPS細胞の培養初期の分化傾向に影響を与えることを見出した。この結果、中空糸径を制御することにより、効率的な内胚葉系分化が可能な培養プロセス構築が期待される。一方、当初予定していた種々の分化誘導因子の添加効果については、中空糸径の影響の検討を優先したこと、また、増殖因子供給のための増殖因子固定化基材の調製に関する検討を優先したため、主要な成果は得られていない。しかし、内胚葉分化への最適な中空糸径を先に見出したことから、分化誘導因子の添加効果はより明確になることが予想される。また、分化誘導因子の効率的な供給を念頭に、増殖因子固定化基材の調製について検討を行っており、その導入効果も明らかになることが予想される。以上の結果、iPS細胞から内胚葉系前駆細胞を創出可能な培養プロセス構築に関する基礎知見を見出しており、当初の計画に従っておおむね順調に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
原則として当初の研究実施計画に沿った検討を実施する。平成30年度は分化誘導プロセスの最適化を行う。平成29年度の知見を基に中空糸内径の最適化を行い、増殖因子および増殖因子固定化基材の導入を行うことにより最適条件を見出す。同時に得られた内胚葉系前駆細胞の機能解析と肝細胞への成熟化に取り組む。一方、分化細胞を用いた肝組織構築に取り組む。肝組織構築法として、研究代表者は独自手法として数種の組織構築法を確立しており、その手法を応用する。特に血管網を有する組織構築においては、血管内皮細胞と共培養することによって作製した階層構造を有するスフェロイドを集積するボトムアップ法に着目している。そのため、まずは得られた分化細胞による最適なスフェロイド形成条件を確立し、ボトムアップ法へと展開する予定である。また、形成された肝組織は最終的には免疫不全マウスへの移植による性能評価を実施する予定である。移植実験では、適当な肝不全モデルを選択する必要があり、検討の過程において急性、慢性両モデルを考慮し、適切なモデルを選択する。なお、移植実験に際しては、動物実験及び遺伝子組換え実験に関する所属機関における学内規定に従い、また動物愛護、生命倫理の観点に十分に配慮した実験計画とする。
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