研究実績の概要 |
平成29年度に明らかにしたアスパラギン結合型糖鎖(N型糖鎖)修飾によるヒトα1,6-フコース転移酵素(FUT8)の活性調節の詳細を調べるために、今年度はヒトFUT8N型糖鎖付加変異体の酵素標品の調製とその機能解析を試みた。酵素標品の調製にはバキュロウイルス‐昆虫細胞発現系を用い、分泌型酵素とするためにFUT8のN末端側にバキュロウイルスのエンベロープタンパク質であるgp67のシグナル配列を導入し、また精製を簡便にすることを目的としてC末端にポリヒスチジンタグを導入した組換えウイルスを作製した。作製した組換えウイルスを昆虫細胞であるSf21細胞に感染させ酵素標品を発現・培地中に分泌させたところ、野生型および糖鎖付加変異体FUT8(D186N, E347N/A349T, E348N, D186N/E347N/A349T, D186N/E348N)が培地中に分泌されそれぞれFUT8活性を持つことが確認された。またグリコシダーゼ消化により培地中に分泌された糖鎖付加変異体がすべてにおいて実際に糖鎖修飾を受けていることが明らかになった。続けて野生型とD186N糖鎖付加変異体について金属キレートアフィニティークロマトグラフィーにより精製することで酵素標品とし速度論的解析を行ったところ、D186N糖鎖付加変異体において受容体基質に対するKm値が野生型に比べ小さくなっており受容体基質に対する親和性が上昇している可能性が示唆された。今後は、その他の変異体についても同様の解析を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
性状解析のためのFUT8糖鎖付加変異体酵素標品を得るためにバキュロウイルス/昆虫細胞発現系を用いることが有効であることがわかり、これまでに調製を終えたWTやD186N以外の変異体酵素の調製を行っているところである。また、FUT8糖鎖付加変異体を恒常的に発現する細胞をタンパク質高発現細胞として知られるCHO, HEK293, Sf21細胞を用いて構築し、これらの機能解析を現在行っている。さらに医薬品タンパク質として有名であるエリスロポエチンをコアフコシル化糖タンパク質のモデルとし、作製したFUT8糖鎖付加変異体発現細胞を用いて発現させコアフコシル化エリスロポエチンの調製を試みているところである。
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