本研究は標的遺伝子のエピジェンティック修飾状態を簡便に測定する方法を開発することを目的としている。これまでに、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)プロモーター中に含まれるグアニン四重鎖(G-quadruplex: G4)構造中のCpG配列中のシトシンがメチル化されると、それらの熱安定性が上昇することを明らかにした。これらの領域を標的としPCRを行うと、メチル化によってG4構造が安定化し、PCR増幅効率が減少するため、PCR増幅効率を測定するだけで標的遺伝子のメチル化レベルを測定できることを明らかにした。さらに、本検出法の標的となるG4構造形成配列を複数含む領域(G4 cluster)をヒトゲノム中から網羅的に同定することに成功した。一方、近年、哺乳類のゲノムDNA中でもアデニンの6位がメチル化されていることが報告された。そこで、本年度はアデニンのメチル化がG4構造の熱安定性に影響を与えるか解析した。c-kitプロモーター中に含まれるc-kit1 G4構造はループ中に2つのA-G塩基対が含まれる。アデニンがメチル化されるとワトソンクリック塩基対形成を阻害することから、c-kit1 G4構造のループ中のアデニンをメチル化すると、そのG4構造の安定性が低下すると考えた。実際にアデニンをメチル化したc-kit1 G4構造の熱安定性を測定した結果、非メチル化c-kit1 G4構造と比較し、Tm値は7.9℃低下した。つまり、アデニンをメチル化するとc-kit1 G4構造の熱安定性が低下することが示された。G4構造の熱安定性がアデニンのメチル化により低下することから、c-kitプロモーター中のアデニンのメチル化レベルをPCRの増幅効率を指標に、簡便に測定できることが示唆された。
|