研究課題
腸内細菌叢のバランスは宿主の健康や疾病に密接に関与する。腸内細菌叢の作用の多くが腸管免疫系に関連することから、乳酸菌の免疫賦活効果が注目されている。これまでに乳酸菌Lactobacillus antriが腸管免疫系で重要な免疫グロブリンAの産生を促進することを見出しており、本研究は、本菌株の菌体表層に存在し、免疫賦活をもたらす成分の同定と構造解析を目的としている。本菌株の免疫賦活作用は、有機溶媒による脱脂処理により喪失し、かつ、免疫細胞上のToll様受容体2を介してもたらされることから、そのリガンドで、グラム陽性菌の細胞壁の構成成分であるリポテイコ酸(LTA)によりもたらされると予想した。LTAは、アシル基で構成される糖脂質で細胞膜にアンカーされ、グリセロールリン酸のポリマー構造が細胞外へと伸長する構造を持つ。病原性細菌ではLTAの構造と免疫調節作用との関連は一部報告があるが、乳酸菌のようなプロバイオティクスでは理解が進んでいない。そこで、本菌株からLTAを精製し、その免疫賦活作用を解析した。具体的には、LTAを細胞壁画分からブタノール水抽出し、疎水性相互作用クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーで精製した。その結果、本菌株には構造が異なる2種のLTAが存在することが明らかとなった。また、それぞれのLTAについて、マクロファージ様RAW264細胞のインターロイキン(IL)-6産生を指標とした免疫賦活作用を調べたところ、一方のLTAはIL-6産生を誘導するが、もう一方は誘導しないことがわかった。これらのLTAの構造を解析し、ポリマー部の構造の違いから免疫賦活に重要な構造を推定した。本研究で得られた知見は、本菌株における免疫賦活作用の理解にとどまらず、ますます需要が高まる乳酸菌の免疫賦活作用のスクリーニングや機能向上に応用できると期待される。
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化学工学
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Bioscience of Microbiota, Food and Health
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10.12938/bmfh.18-015