研究課題/領域番号 |
17K06940
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
畠中 和明 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30749320)
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研究分担者 |
廣田 光智 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (50333860)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 航空機姿勢制御 / 流体的推力方向制御(FTV) / 飛行実証 / 自律飛行 / FTV性能評価システム構築 |
研究実績の概要 |
本研究では,流体力学的推力偏向技術(Fluidic Thrust Vectoring: FTV)をモデル航空機に組み込み,有効な姿勢制御機構として従来の姿勢制御手法と同等以上に機能することを示すことを目的としている。平成29年度に得た成果の概要を以下に示す。 1. 主流の偏向角度の制御性を改善することを目的として,主流から分岐される2次流路入口形状に工夫を施した改良型FTVノズルを設計・製作し,その推力偏向性能を数値シミュレーション及び室内実験によって検証した。その結果,非線形性が強かった2次流路入口開度に対する主流偏向角が線形に近づき,偏向角の制御性が改善されることを確認した。 2. FTV機構の性能を飛行試験によって検証する際に必要となる,飛行条件を一定に揃えるための自律飛行システムと,詳細な飛行データを収集するためのロギングシステムの構築を行った。小型コンピュータに慣性計測装置(IMU)を接続し,オープンソースのフライトコントローラーをベースとしたソフトウェアを組み込んでモデル航空機に搭載した。飛行データは小型コンピュータに接続したSDカードに任意の情報を50Hzで記録可能とした。フライトコントローラには FTV で姿勢制御を実現するための改造を施した。飛行試験を実施する前段階として,フライトシミュレータとフライトコントローラソフトを接続し,自律飛行動作の検証を行い,良好な結果を得た。 3. 上記フライトコントローラをプロペラエンジン機に搭載して自動操縦による飛行試験を実施した。その結果,手動操縦では得られない再現性の高い周回飛行が可能であることを確認した。 本研究によって,FTV機構の設計・実験・数値計算に飛行実証のフェーズを加えた開発サイクルが構築され,より高性能なFTV機構が短期間で実現することが期待される。FTV機構の実用化へ向け,本研究の工学的意義は大変大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は大きく以下の2つの計画を立て,研究を実施した。 1. 自動飛行システム及び飛行データロギングシステムの構築と飛行試験 2. FTVノズルの最適化及び飛行試験 1.については高い再現性で周回飛行を実現する自律飛行システムと,詳細な飛行データをロギングするシステムの構築に成功した。これにより,舵面で行う姿勢制御とFTV機構を使用した姿勢制御性能の比較検証を定量的に行うことができる試験環境を実現することができる。また,FTVノズルの改良による性能改善も飛行試験を通して確認することが可能となり,FTV機構実用化へ向けたより実際的な評価を行うことも可能となる。更に,フライトコントローラの機能である自動離着陸を含めた完全自律飛行にも成功しており,バッテリーの制約による短い飛行時間(3~4分)を効率的に試験時間として使うことができるようになった。本計画項目は,ベースとなるソフトウェアとして採用した Ardu Pilot Mega (APM) のソースコードの規模の大きさ・複雑さから,取り扱いの習得に時間がかかり,当初計画通り進まないことが懸念された事項であったが,順調に進捗した。 2.については,先行して開発していた FTV ノズルを改良し,主流偏向角の制御性を改善することに成功した。当初計画では,この改良型ノズルを手動操縦で飛行実証することを予定していたが,手動操縦では改良前ノズルとの性能比較が難しく,得られる成果が少ないと判断した。1.で述べた自律飛行システムの構築が順調に進んだことから,本自律飛行システムに搭載した飛行試験を次年度実施することとした。 以上のように,本研究課題は,当初計画に照らしておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,前年度までに開発した自律飛行システム・飛行データロギングシステムを用いて,FTVノズルをモデル航空機に搭載して飛行実証試験を実施する。室内での実験・数値シミュレーション・飛行試験のデータを総合的に解析し,FTV ノズル性能改善のための課題を洗い出し,改良型ノズルを設計・製作する。このような開発サイクルを複数回実施し,より高い性能を有するFTVノズルを実現する。 次に数値シミュレーションにおける研究上の課題について述べる。数値シミュレーションでは実際のFTVノズルと同等のモデル・試験条件で計算を行っているが,主流の偏向角が実験値よりも小さくなることが判った(実際の偏向角の3分の1程度)。ノズル性能改善のために,数値解析による検討を行う上で,改善が望まれる課題である。本件について調査を実施した結果,ダクテッドファンによって発生する主流は旋回流であり,数値計算ではこの旋回成分を再現していないことが原因である可能性が高まった。実際,実験装置の方で流れを整流してからFTVノズルを通すと,偏向角が大幅に小さくなり,数値計算の結果と近づくことが分かった。今後は,5孔ピトー管を用いるなどして主流の旋回成分を測定し,数値解析の境界条件として使用することを対応策として検討している。
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備考 |
室蘭工業大学大学院工学研究科 生産システム工学専攻 推進工学研究室Webページの研究紹介の一つとして,本研究内容をインターネットで公開している。
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