研究課題/領域番号 |
17K06948
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
宇田 暢秀 九州大学, 工学研究院, 教授 (20160260)
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研究分担者 |
藤ヶ谷 剛彦 九州大学, 工学研究院, 准教授 (30444863)
永井 弘人 九州大学, 工学研究院, 助教 (50510674)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / 航空機構造 / 複合材料 / 低コスト成形 / 熱可塑性樹脂 / CNT |
研究実績の概要 |
航空機構造に現在適用されている炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics, CFRP)の成形にはプリプレグやオートクレーブが用いられているが、基材製造や成形のコストが高いという問題がある。これらの問題点を打開するために、基材製造・成形コストを抑えることができる成形法としてVaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法が注目されている。今年度の研究として、この成形法がもたらす成形初期不整の一つである層うねりを最も低減させる可能性がある炭素繊維NCF(Non-Crimp Fabric)を用いてVaRTM法による成形を行い、圧縮試験や衝撃後圧縮(Compression-After-Impact, CAI)試験を行った。 研究代表者らの昨年度までの研究成果として、PBI(Polybenzimidazole)で被覆したCNTは熱硬化性エポキシ樹脂の中で均一に分散し、CNT(Carbon Nanotube)と樹脂の界面接着性も向上することがわかったので、本研究に用いる熱可塑性樹脂としては、PBIによる被覆が有効となることが期待できる熱可塑性エポキシ樹脂を候補とした。この樹脂は近年開発が進んでいるものであるが、現在入手可能なものは粘性が非常に高く、現有のVaRTM装置による成形は難しそうであったので、上記のVaRTM成形には従来から用いられている熱硬化性エポキシ樹脂を使用した。 VaRTM法に従来用いられてきた擬似一方向性炭素繊維ファブリックに比べ、炭素繊維NCFは繊維束どうしが非常に密に詰まっており、樹脂の含浸性に問題があり、超音波探傷装置を用いた非破壊検査によってボイド率が高くなっていることを確認した。 CFRP積層板のボイドのような欠陥あるいは損傷の非破壊検査手法として有望視されているLamb波を用いた非破壊検査を、CFRP製航空機構造モデルに適用し、欠陥や損傷の検出を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究実施計画では、熱可塑性樹脂に添加するCNTの表面処理法の有効性を確認するために、CNT添加樹脂の引張試験を行い、「ひずみ解析ソフトウェア」によって得られるひずみ分布を用いることとしていた。しかしながら、引張試験に用いる材料試験機の荷重表示が不安定になるという試験機の不具合が発生したため、「ひずみ解析ソフトウェア」の購入は断念し、材料試験機の補修費用に充てた。 「5.研究実績の概要」に記載した理由により平成29年度は熱可塑性樹脂を用いた成形は見合わせたが、熱硬化性エポキシ樹脂に対するCNT表面処理法の有効性は、PBI被覆CNTを熱硬化性エポキシ樹脂CFRP積層板の層間に添加することによってモードII破壊靱性値が250%向上したことによって確認できた。 基材製造・成形コストを抑えることができる成形法であるVaRTM法が注目されているが、今年度の研究として、この成形法がもたらす成形初期不整の一つである層うねりを最も低減させる可能性がある炭素繊維NCFを用いたVaRTM成形を行い、圧縮試験やCAI試験を実施した。圧縮強度やCAI強度は擬似一方向性炭素繊維ファブリックVaRTM積層板と同程度で、層うねりが低減されたことによる強度値の上昇は得られなかった。NCFを用いた積層板では特に圧縮強度が向上することを予想していたが、NCF積層板の成形中に発生したボイドによって圧縮強度の向上が妨げられたと考えられる。 低コスト成形熱可塑性樹脂CFRPのボイドや損傷などの定量的非破壊評価に適用することを目的とするLamb波を用いた非破壊検査手法は、単純な構造モデルでは実用化の可能性があるが、補強材を有するようなCFRP実構造モデルでは欠陥や損傷の検出が難しいことがわかった。CFRP補強平板のLamb波伝播挙動に関する基礎研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に実施する予定であった熱可塑性エポキシ樹脂を用いたVaRTM成形を行う。VaRTMの樹脂含浸工程における樹脂温度や成形冷却速度を変更して供試体を作製し、供試体の力学特性に基づき含浸工程の適正樹脂温度や成形冷却速度を決定する。エポキシ樹脂のヤング率と破壊靱性値はトレードオフの関係があり、積層板の引張や圧縮、CAI強度を向上させるためにはヤング率と破壊靱性値のいずれを優先させるべきかについて力学特性解析モデルを用いて明らかにするとともに、層うねりに代表される成形初期不整がCAI強度などの力学特性に与える影響を定量的に評価する。 PBI被覆CNTを熱可塑性エポキシ樹脂に添加して試験片を製作し、引張試験によってヤング率や引張強度を求める。その際、「7.現在までの進捗状況」に記載した理由で平成29年度に購入することを見送った「ひずみ解析ソフトウェア」に代替できるようなひずみ計測システムを開発し、CNTに施したPBI被覆が熱可塑性エポキシ樹脂に対しても有効であることを確認する。 低コスト成形熱可塑性樹脂CFRPの実構造モデル中に存在するボイドや損傷などの定量的非破壊評価を行うために、Lamb波を用いた非破壊検査手法を開発する。 PBI被覆CNTを熱可塑性エポキシ樹脂CFRPの層間に配置した積層板をVaRTM法で成形し、その供試体を用いて力学特性、特にCAI特性を明らかにする。得られたCAI特性が、航空機の一次構造に従来用いられてきた熱硬化性樹脂CFRPのCAI特性に匹敵するものかについて検討する。最後に、本研究で得られた低コスト成形CNT層間強化型熱可塑性樹脂CFRPを航空機構造へ適用することの有益性、適用限界等を議論し、熱可塑性樹脂CFRPの航空機一次構造への適用に備えるとともに、研究成果を報告書にまとめる。本研究によって得られた成果は国内外の学会講演会で適宜発表し、国際学術誌へ論文投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「7.現在までの進捗状況」にも記したように、平成29年度の研究実施計画では、熱可塑性樹脂に添加するCNTの表面処理法の有効性を確認するためにCNT添加樹脂の引張試験を行い、「ひずみ解析ソフトウェア」によって得られるひずみ分布を用いることとしていた。しかしながら、引張試験に用いる材料試験機の荷重表示が不安定になるという試験機の不具合が発生したため、「ひずみ解析ソフトウェア」の購入は断念し、材料試験機の補修費用に充てた。購入することを見送った「ひずみ解析ソフトウェア」に代替できるようなひずみ計測システムを開発するために、グラフテック株式会社製ひずみ計測ユニットを購入したが、ひずみ計測システムを構築するにはチャンネル数が不足しており、次年度にこのユニットを追加購入する予定であり、その購入費用の一部に充てる予定である。
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