研究課題/領域番号 |
17K06955
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
松本 康司 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究領域主幹 (10470072)
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研究分担者 |
高田 仁志 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究領域主幹 (30358569)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダイヤモンド被膜 / CVD / 中間層 / 宇宙環境 / トライボロジー |
研究実績の概要 |
本研究は,月面など真空粉塵環境下で駆動する機器のしゅう動面の信頼性を確保するための耐摩耗性被膜を見いだすことを目的としている.月惑星探査では,真空粉塵環境下で使用できる駆動機器を開発する必要があり,そのしゅう動部には,対粉塵用の耐摩耗性の優れた硬質被膜が必要となる.これまでの研究でCVDダイヤモンド被膜が優れた潤滑性・耐摩耗特性を示すことが分かっているが,CVD ダイヤモンド被膜は熱膨張率の違いから一般的に宇宙用に使われている金属材料の表面に成膜することが難しく,宇宙用としては実用にいたっていない.この問題を解決するため,適切な中間層材料及びその成膜方法を見つけ出すことおよびCVDダイヤモンドの成膜条件を最適化することが重要となる. 昨年度までに,宇宙用としても使用実績があり,比較的高温にも耐えられるチタン合金を基板とし,CVDダイヤモンド被膜が成膜可能な数種の中間層候補の抽出に成功している.今年度は,CVDダイヤモンドの成膜方法・条件の最適化のため,マイクロ波プラズマCVDと熱フィラメントCVDによる成膜を行い,それぞれの特性の違いについて知見を得ることができた.また,熱フィラメントCVDにおいて成膜温度を通常より約250℃下げた条件下での成膜を行った.その被膜に対し,ラマン分光分析やSEM観察によるダイヤモンドの成長の仕方の検討や,真空中の摩擦試験によるトライボロジー特性の評価を行い,通常温度で成膜した被膜との比較を行った.結果として,低温成膜においても,通常温度で成膜が可能であった中間層やセラミックス基板上に同様に成膜できることが分かった.このことから,基板材料や中間層の選択肢を広げられる可能性が得られた.また,低温成膜ではダイヤモンドの結晶粒径が小さくなることなどの知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宇宙用として使用される金属基板上にCVDダイヤモンド被膜を成膜するという目標に対し,溶射などによる中間層の成膜により,実際にダイヤモンド被膜の成膜に成功している.その中間層も数種の材料等で成功に至っており,大きな成果となっている.また,CVDダイヤモンド被膜そのものの成膜方法・条件を変えて成膜し,それらの被膜のラマン分光分析やSEM観察,真空中のトライボロジー特性評価により,下地基板や中間層の最適化やさらなる高性能被膜の獲得に向けた知見が得られている.特に熱フィラメントCVDによる成膜では,温度を大きく下げた条件下での成膜に成功し,金属基板材料や中間層の選択肢の幅を広げられる可能性を見出している.CVDダイヤモンド被膜の生成メカニズムとして,成膜できない基板や中間層の場合においてもダイヤモンドの成長には問題が無いことや、途中のはく離の過程などに関する現象の理解に向けた取り組みも進められている.これらの多くの知見にもとづく一定の成果が得られており,学会等で発表するための準備を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
金属基板上にCVDダイヤモンド被膜を成膜するための中間層の材料・成膜方法の抽出ができており,今後は最表面のCVDダイヤモンド被膜そのもののさらなる特性把握とトライボロジー特性の改善,最適な相手材の抽出を行う.そのため,しゅう動条件・環境・相手材等を変えたトライボロジー特性評価を継続して実施し,CVDダイヤモンド被膜と各相手材の組合せにおける摩擦摩耗メカニズムを把握する.また引き続き,CVDダイヤモンド被膜の成膜過程のメカニズムの理解を試み,被膜の高性能化や成膜可能な基板材料や中間層材料の選択肢の拡大をねらう.これまでに得られた多くのデータと知見をまとめ,実用に向けた取り組みを行うとともに,国内外の学会等で成果発表を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでに,最適な中間層を抽出することにより,CVDダイヤモンド被膜を金属基板に成膜することに成功している.また,CVDダイヤモンド被膜そのものの成膜性やトライボロジー特性についての数多くのデータが取得できており,多くの知見が得られている.それらの成果を国内外の学会等で発表する予定であるが,年度内に開催され発表を申し込める学会がなかったため,その機会を翌年度に得ることとした.
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