本研究課題では,水中での高速・長距離での光無線通信システムの実現に向けた検討を行った.本年度では,1.長距離伝送,2.複数の可視光レーザを用いた伝送,について検討した.まず長距離伝送については,昨年度に引き続き,受信感度の向上が期待できる帯域1GHzを超える特殊な光電子増倍管(PMT)を用いた水中光無線伝送に関する検討を行った.伝送実験の結果から先行研究で公開されている水の消散係数をもとに延伸距離を算出したところ,一般的に用いられているアバランシェ光検知器(APD)と比べて,1Gbit/s伝送時では,純水中では約631m,飲料可能な自然水中では約164mもの長距離化が可能であることが明らかとなった.次に,複数の可視光レーザを用いた伝送についての検討では,送信側の端末数を増加させることで伝送チャネル容量を増やすことを目指した.各端末が非同期に通信できるよう,本検討では直交周波数分割多重(OFDM)方式とサブバント多元接続(SBMA)方式を組み合わせた新しい方式を提案し,その水中伝送実験により有効性を検証した.水中通信路として長さ1m,内径3cmの透明なアクリルパイプ内に満たした水道水中のその両端に送受信機を設置して伝送実験を行った.複数の送信端末からのレーザ光は,水中通信路に入射する前に結合した.2送信端末での水中伝送実験結果から,エラーフリーを達成するための誤り訂正符号適用条件(QPSK-OFDM信号でEVM約32%以下)を満たす水中光無線伝送が可能であることを明らかにした.
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