平成29年度に判明した低速近似Green関数法の定式化の不備について見直しを行った。当初の方法は積分方程式の核関数であるGreen関数の厳密解を速度UについてTaylor展開し、Uの二乗以上の高次の項を無視できるという考え方に基づいて定式化を行っていた。しかし、波が波源から遠ざかるに従って減衰するという物理的常識に従わない結果となっていることから、Green関数の厳密解を速度で展開することが、本来の境界条件を満足しない核関数となっている可能性があるとの結論に至った。そこで、各境界条件において(特に自由表面条件)、Uの高次項を無視した低速条件下での自由表面条件、水底条件、発散条件を求め、これらの境界条件を満足する低速時にのみ対応するGreen関数を解析的に導くことを試み、当該手順に沿った定式化を行った。 一方で、本研究は浮体式海洋構造物に対する潮流影響を考えることが目的で開始したのであるが、研究の核となる積分方程式の核関数の見直しに時間を取られたので、 当初の目的を変えることにした。すなわち、新たに定式化したGreen関数の妥当性を検証することを目的として、取りあえず船舶が低速航行する際に、本定式化が適当か否かを検討することにした。このような考え方の下、本年度は定式化の完成と確認並びに数値計算コードの開発及び昨年度実施した船型模型が低速(Fn=0.05)で前進する場合の波浪中動揺特性試験の計測結果との比較によって本理論に基づく定式化妥当性の検証を行った。その結果、数値計算結果による運動応答と抵抗増加の値は、実験の結果と良い一致を示し、理論の妥当性の検証ができた。 本研究期間には完成しなかったが、当該定式化の成果を潮流と波浪が併存する海域における一般浮体に拡張して、最終的に当初の目的である浮体式海洋構造物に対する潮流影響への理論的展開を考える必要がある。
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