昨年度ではAISからの偏流推定を行い、元データの件数をもとにした信頼性指標が閾値を超える(推定有効の)海域では既存海潮流推定より船舶観測値に近く、高精度であることを検証した。しかし、元データの件数が少ないため信頼性指標が閾値を超えられない海域では船舶観測値との決定係数が極めて悪く、推定無効とした。推定無効の海域が観測値ベースで1.4%存在し、広域の偏流推定が必要なウェザールーティングの目的には使いにくい。 そのため、既存海潮流推定とAISによる偏流推定を統合するアルゴリズムを考案し実装した。当初はカルマンフィルタによるデータ同化を検討したが、計算量が過大になること等の困難があったため、AISから推定した偏流を推定過程における固有ベクトルの方向2成分に分け、既存海潮流推定を流向とその垂直方向の2成分に分け、合計4成分をそれぞれ信頼性指標に応じた係数をかけて統合する手法をとった。すなわち、AISレコードを大量に受信できる海域では統合結果はAIS推定にほぼ一致し、AISレコードが乏しい海域では統合結果は既存海潮流推定に近いものとなる。 その結果、統合された偏流は統合前の2者いずれよりも高精度に推定できていた。特に、AIS受信レコード数が少ないため推定無効とされた海域においても統合推定は既存海潮流推定より精度が高く、信頼性指標を基にした統合手法の有効性が確認できた。 この成果により、対象海域全域において、推定無効の海域を残すことなく、既存海潮流推定より高精度の船舶偏流推定を行うという当初の目的が達成できた。本研究成果を社会実装することにより、内航船のウェザールーティングの燃料消費削減効果をさらに向上させることになると期待できる。
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