研究実績の概要 |
機械の損傷原因となる潤滑状態を監視・診断する機能を加えることで漁船の損傷自体を未然に防ぎ健康寿命を大幅に延長させるシステムの開発を行うことが本研究の目的である.研究代表者は複数の機械設備に対し,特定方向に集音効果が高く,音源同定が可能なパラボラ集音マイクロホンと提案する信号処理手法「合成波形分離」を用いることで高効率,高精度な状態監視手法をこれまで提案している.本手法は損傷時に発生する約1kHz以下の回転周波数成分の強度差に着目し,音源同定を行い,損傷信号のみを抽出するものである. 本手法は損傷の検出に特化したものであり,損傷が進行している機械に対して非常に有効な手法である.本研究では提案手法を機械の損傷初期に現れる摺動性超音波振動の測定に範囲を拡大したものである.平成29年度は状態監視・診断の対象となるピストン-シリンダライナ機構,転がり軸受,滑り軸受から発生する摺動性超音波振動の指向性測定を行っている.これまで低周波では波動の回折効果の影響で問題とならなかったパラボラマイクの設置位置に関しては摺動性超音波振動の場合, 指向性が存在するため最も集音効果の高い位置に設置する必要がある. そのため試験機を用い基礎実験を行い集音効果の高い最適な設置位置の同定を行っている.基礎実験ではピストン-シリンダライナ機構および滑り軸受試験機の潤滑油の種類と温度,試験機回転数,負荷荷重を変化させた場合の摺動性超音波振動の正確な発生帯域とその発生量の定量化を行っている. 転がり軸受試験に関しては回転数と損傷の箇所と大きさを変化させた場合の摺動性超音波振動の発生帯域と発生量の定量化を図っている.さらに実験後に採取した潤滑油の性状を分析し,摺動性超音波振動の定量化された値との相関を解析することで診断に必要な閾値の設定を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は状態監視対象として損傷の発生しやすい摺動部が存在するピストン-シリン ダライナ機構,転がり軸受, 滑り軸受を選択している.指向性が存在する摺動性超音波振動の測定であるため集音効果の高い場所にパラボラマイクを設置する必要がある.これまでに得られた知見によれば状態監視対象の投影面積が最大の面にパラボラマイクを設置すると高い集音効果を得られることが分かっている.この知見を基にパラボラマイクを設置する最適な場所を実験的に同定することが可能となった.ピストン-シリンダライナ機構試験機,滑り軸受試験機では油膜厚さと摺動性超音波振動の正確な発生帯域と発生量の定量化を行うことが可能となった.またピストン-シリンダライナ機構試験機および滑り軸受試験機に用いた潤滑油を採取し, 含まれる摩耗粉粒子数SOAP法により求められる摩耗粉粒子の種類から潤滑油の性状を求めている.さらに各摺動部表面の電子顕微鏡観察により損傷程度を確認する.以上のデータを参考にしながら診断上重要な閾値の設定を行う事ができた.診断の閾値は最終的に潤滑状態を「最優良」「優良」「正常」「初期汚損」「中期汚損」「末期汚損」の6ステージに分類し, 直観的に判断しやすくしている. さらに本提案課題では潤滑状態の状態監視・診断に加え従来からの機能である低周波領域に現れる回転周波数成分から損傷機械要素の音源同定および損傷信号の抽出を行い損傷に関する精密診断を実施し異常の種類の同定を行い適切なメンテナンス時期を決定するために必要な情報提供を行うシステムも同時に構築することができたことから本提案課題はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として前年度までに引き続きピストン-シリンダライナ機構および滑り軸受試験機の潤滑油の種類と温度,試験機回転数,負荷荷重を変化させた場合の摺動性超音波振動の正確な発生帯域とその発生量の定量化を行う. 転がり軸受試験に関しては回転数と損傷の箇所と大きさを変化させた場合の摺動性超音波振動の発生帯域と発生量の定量化を図る.さらに実験後の潤滑油の性状を分析し, 摺動性超音波振動の定量化された値との相関を解析することで診断に必要な閾値の設定を行う.
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