研究実績の概要 |
漁船の健康寿命延長を実現する次世代型状態監視・診断システムの開発である.基盤となる技術は研究代表者が提案している「パラボラマイク」と「合成波形分離」を用いた高効率,高精度な状態監視手法である.本手法はパラボラマイクの集音特性を利用し,回転機械損傷時に発生する低周波の回転周波数成分の強度に着目することで,複数の機械設備の中から状態監視対象のみの機械設備を同定することができる.その後「合成波形分離」を用い損傷信号のみの抽出が可能な手法である.今回,新たな提案課題では音源を同定し,抽出するのは低周波の回転周波数成分ではなく機械設備の潤滑状態が悪化し摺動面同士の直接接触時に発生する摺動性超音波振動である.超音波の場合,解析的に算出可能な回転周波数とは異なり発生する正確な周波数が明らかになっていないため音源の同定を行い,その中から損傷信号のみを効率的に抽出することは不可能であった.しかしながら, 提案課題では実験的に摺動性超音波振動のみを抽出し発生帯域と発生量の定量化を行う事ができる. 本年度,平成30年度は状態監視対象として損傷の発生しやすい摺動部が存在する転がり軸受,滑り軸受を選択している.転がり軸受試験機,滑り軸受試験機では摺動性超音波振動の正確な発生帯域と発生量の定量化を行っている.さらに滑り軸受試験機に用いた潤滑油を採取し,その中に含まれる摩耗粉粒子数から潤滑油の性状を求めている.さらに各摺動部表面の電子顕微鏡観察により損傷程度を確認した.これらの参考にしながら診断上重要な閾値の設定を行っている.診断の閾値は潤滑状態を「最優良」「優良」「正常」「初期汚損」「中期汚損」「末期汚損」の6ステージに分類し, 直観的に判断しやすくした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重要機械設備の保全政策は損傷を前もって予防する予防保全が前提である.これは損傷を早期に発見する損傷反応型の保全政策に加え,損傷の元となるストレスの監視,診断を行い取除く損傷原因除去型保全が保全政策として最適である.漁船は他の船舶に比べコスト的にも マンパワー的にもメンテナンスが行き届いていない傾向があるため上記の保全政策に基づく「健康寿命延長を実現するための状態監視・診断システム」が必須である.現状では状態監視対象となるピストン-シリンダライナ機構,転がり軸受,滑り軸受の状態監視・診断では損傷の検出が主流であり,潤滑油を採取すること無しに簡便に潤滑状態を推定する技術を実用化することは困難であった.本研究では損傷が発生する前に損傷の要因を監視・診断する機能を新たに加えることで健康寿命の延長,安全安心な操業,高効率化による省エネルギーを実現させる状態監視・診断システムの開発を行うことを目的とする.平成30年度は状態監視・診断の対象であるピストン-シリンダライナ機構, 転がり軸受,滑り軸受各試験機に使用する潤滑油の種類,温度,各試験機の駆動回転数,負荷荷重を変化させ,油膜厚さと摺動性超音波振動の正確な発生帯域の同定および発生量の定量化を行っている.さらに実験後の潤滑油性状の化学的な分析および各試験機の摺動面の電子顕微鏡観察から診断の閾値を設定し潤滑状態を「最優良」「優良」「正常」「初期汚損」「中期汚損」「末期汚損」の 6ステージに分類している.本年度,平成30年度は潤滑状態を示す6ステージの閾値設定に関わる実験を継続しており,高精度かつ高信頼性な状態監視・診断システムを構築している事から,当初の計画通りである.よって本提案課題はおおむね順調に進展しているものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年度,令和元年度は研究代表者の所属する水産大学校の練習船 耕洋丸の機関室に設置してある発電機,循環水ポンプのピストン-シリンダライナ機構,転がり軸受,滑り軸受を対象として提案手法の実用性を検証する.具体的には発電機,循環水ポンプの油面レベルを低下させ,負荷を増加させる加速試験を行う.潤滑状態を示す6ステージの各ステージ相当する閾値まで変化させ試験終了後に潤滑油を採取する. 採取された潤滑油の摩耗粉粒子数などを解析することで提案手法との整合性を検証する. 検証後,実用性が確認されれば提案手法に関する特許出願を行い,携帯型診断装置に本機能を搭載し試作品の製作を行なう.
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