昨年度までの研究において,小型圧力容器を用いることで天然ガスハイドレート試料から状態のよい試料破片を取り出すことが可能になったため,今年度は取り出した試料破片のラマン分光法による評価法の改善と局所的な放射線環境の復元のためのシミュレーションの開発に取り組んだ.既設の顕微ラマン分光装置に高分解能の回折格子を導入することで,天然ガスハイドレートに包接されるメタンのスペクトル分解能を向上させ,結晶性のよさの評価を適切に行えるようにした. また,砂層の孔隙を満たすように生成したものや,塊状や板状に大きく成長したものなど,多様な形で海底下の堆積物などに存在する天然ガスハイドレートは,その周囲にある堆積物から自然放射線を受ける.自然放射線には天然放射性同位元素のウラン系列,トリウム系列,40Kなどから放出されるα線,β線,γ線があるが,試料を透過できる距離に大きな違いがあることから,試料が生成してから採取されるまでに照射された放射線量は試料の成長にともない変化する.そこで,天然ガスハイドレートの成長について,初期に急成長してその後は成長しない,現在までゆっくりと成長している,初期にはあまり成長しなかったがその後に大きく成長するという3つのモデルを考え,被曝線量シミュレーションのプログラムを開発した.計測対象となる試料の成長方向に対し,総被曝線量がモデルや位置によって大きく変わること,成長初期,中期,後期の少なくとも3点を選び年代推定を行うことで,天然ガスハイドレートの成長モデルの推定が可能になることを明らかにした.試料の成長とともに自然放射線からの被曝線量が変化することを考慮したシミュレーションは,一般的なルミネッセンス年代測定や電子スピン共鳴年代測定においても広く用いることができると期待される.
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