本研究の目的は核融合炉材料として利用が予定されているタングステンとそこに形成される空孔および空孔集合体に関する研究である。タングステンは融点が高く、水素溶解度が低い、などプラズマ対向材料としては優れた特性を持つ。しかし、照射環境下では空孔や空孔集合体が材料内に形成される。これらの空孔型欠陥には水素同位体やヘリウムが捕獲されることが指摘されており、本来期待されている材料特性に悪影響があることが懸念されている。 また、エネルギー計算によると、単原子空孔(V)よりも二原子空孔(V2)の方が不安定である。そのためどうして単原子空孔が集まって二原子空孔、さらにはもっと大きな空孔集合体に成長していくかという基礎的な疑問があった。本研究では密度汎関数法に基づく第一原理計算を使ってこの問題の解明を試みた。 まず、V2を安定化させる要因は不純物であることがわかった。不純物とはプラズマ由来の水素同位体やヘリウム、および金属を精錬する段階で微量ながら金属内に残る、炭素、窒素、酸素、などがある。計算によるとこれらの不純物によってタングステン中のV2は安定化することが明らかになった。特にタングステンの中を素早く拡散することができる酸素が空孔クラスターの安定化に最も貢献していると結論した。 今年度は、タングステンと同じBCC構造を持つ鉄中の空孔集合体の研究も行い、両者の安定構造を比較した。両者のV2の安定構造はタングステンが空孔の<111>配置、鉄は<100>配置で異なる。しかし、それよりも大きな空孔集合体ではV3からV10まで同じ構造をしていた。違いが見え始めるのは11個の空孔で構成されるV11からだった。また、タングステンおよび鉄の空孔に捕獲される複数個のヘリウムの構造を調べた。ヘリウムの個数が少ない時はお互いに距離をとるように同じ構造をする。しかし、空孔中のヘリウムが6個の構造は違っていた。
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