研究課題
先進的ろう付接合法を用いて作成したW/BNi-6/GlidCop接合体の接合部が優れた靭性を有する理由を明らかにするために,接合部に対して集束イオンビーム加工観察装置(FIB)を用いて鏡面研磨を行い,電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM),エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いてろう付部の構造(組織)解析を実施した.その結果,接合部はマイクロレベルにおいて亀裂や空隙の無い緻密な接合界面であることが明らかになった.また,タングステンとGlidCopの結晶粒が互いに入り組んでおり,あたかも当初から連続していた材料であるかのような構造を有していた.ろう材として挿入していたBNi-6の成分であるNiとPは,ほぼ全てGlidCop側に拡散しており,界面にはほとんど存在していないことがわかった.つまり,ろう材の成分すらほとんど確認できない本当の意味でのタングステンとGlidCopの直接接合が確認された.マイクロレベルで緻密な直接接合界面が優れた靭性の発現に寄与していると考えられる.一方,室温で接合部を破断させた試験片においても,FE-SEMを用いた詳細な破断部組織解析を実施した.その結果,接合部が破断する際,亀裂の開始点は接合界面では無く,接合界面に近いタングステンバルク内であることが明らかになった.また,発生した亀裂はタングステンバルク中を伝播するが,接合界面に達したところで進展を停止することもわかった.この事実から,接合界面はタングステンバルクよりも高い強度を有していることが示唆され,これ以上強度の高い接合界面を得ることは物理的に困難であると考えられる.したがって,さらなる破断強度の向上を目指すには,タングステンバルク材の素材自体を見直す必要がある.以上の結果より,ろう付接合部が高い靭性を有する理由と同時に,さらに高い機械的強度を得るための方策も明らかになった.
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度は,W/BNi-6/GlidCopろう付接合部の詳細な組織観察を実施することが目的であった.ろう付接合部の組織観察は電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて行うことが必要であるが,接合界面に余計な酸化や汚れを生じさせること無く研磨することが必要であるため,鏡面研磨には集束イオンビーム加工観察装置(FIB)を使用することが好ましいと考えられた.一方で,FIBによる研磨には習熟した技術を要するため,正確な鏡面研磨面を得るには時間がかかると考えていた.しかしながら,平成23-25 年度若手研究(B)「先進的ナノ加工技術を用いたMixed-material堆積層の構造特性評価」で培ったFIB加工技術を応用することで,予想以上に順調に綺麗な鏡面研磨面を得ることに成功した.これにより,マイクロレベルで精度の高い組織観察結果と組成分析結果を早い時期に得ることができた.また,破断部の組織解析においては,同じくFE-SEMを用いた組織観察が必要であった.この場合,数mmの破断部をマイクロメートルスケールで詳細観察する必要があるため,観察場所の適切な選定と効率的な観察が求められた,これについては,数mmの領域を1000培あるいは2000倍の倍率で連続観察を行い,後で写真を繋ぎ合わせる手法を用いることで,広い範囲の破断箇所の情報を効率的かつ正確に捉えることに成功した.その結果,破断機構の詳細を突き止めることができた.以上の観察技術の工夫と進展により,当初予定していた計画以上に正確な知見を得ることができた.
平成30年度は,先進的ろう付接合法を用いて製作したW/BNi-6/GlidCop小型ダイバータ試験体に,20MW/m2 までの電子ビーム定常熱負荷試験を実施する.試験には,核融合科学研究所で稼働中の超高熱負荷試験装置(ACT2)を用いる,20MW/m2の熱負荷試験には,ACT2の冷却ビームリミタおよび試料表面からの輻射エネルギーを受け止める真空容器保護用冷却輻射シールドの冷却能力の向上を計る必要があり,まずはその改造を実施する.また,大規模ダイバータ試験体の設計・製作の検討を始める.平成31年度は大規模ダイバータ試験体の設計・製作に本格的に着手する.大規模ダイバータ試験体の冷却性能に大きく関わる項目の一つに,冷却流路の設計が挙げられる.最適な冷却流路設計のためにはいくつかの試験体を製作して熱負荷試験を繰り返す必要があると想定される.そのための試験体の製作と熱負荷試験の実施は平成31年度から平成30年度に繰り上げて実施することも考えている.
当初の計画では,200℃以上の高温での曲げ試験用冶具の製作のため,約20万円程度の支出を予定していたが,冶具だけではなく曲げ試験機自体の改造が必要であることがわかった.そこで,高温での曲げ試験用冶具の製作はひとまず見送ることとし,200℃までの曲げ試験で特性評価を進めることとした.一方で,平成29年度は関連する実験打合せや学会での旅費が増えたため,差し引きした結果として残金が生じた.残金については平成30年度において,小型タングステン片購入・加工費および小型銅合金片購入・加工費に使用する予定である.
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Nuclear Fusion
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