研究課題
先進的ろう付接合法で製作した小型のW/BNi-6/GlidCop(ODS-Cu)製ダイバータ受熱機器試験体に対して,平成29年度までの時点では,核融合科学研究所設置の超高熱負荷試験装置(ACT2)を用いた電子ビーム熱負荷試験を実施し,~15MW/m^2までの熱負荷において良好な除熱性能を確認していた.平成30年度はACT2の冷却設備の改良を行い,さらに高い熱負荷での試験を実施した.その結果,~24MW/m^2の定常熱負荷においても機器としての健全性を維持した状態で良好な除熱性能を発揮する事が確認された.さらに,3秒間のパルス熱負荷試験においては,~30MW/m^2程度までの繰り返し熱負荷に耐えられる事も確認した.熱負荷時に接合界面に生じる熱応力について,有限要素法解析ソフトANSYSを用いた熱応力解析も並行して進め,現在継続中である.一方,平成29年度は,ろう付接合部(接合継手)の詳細な組織観察を重点的に実施したが,平成30年度はさらに,接合継手がなぜ優れた靭性を獲得できているのかを明らかにするため,接合継手部の詳細な硬さ試験を実施した.硬さ試験の結果では,接合界面のGlidCop側で,界面からの距離100~700マイクロメートルの領域で極端な硬さの減少(軟化)が確認された.一方でそれ以外の領域では有意な硬さの減少は見られなかった.この事実から判断して,軟化した領域が優先的に変形する事で接合継手が脆性的な破壊を免れている,つまり,靭性を獲得していると考えられる.軟化の理由についてはまだ完全に明らかになっていないが,ろう材成分であるNiやPの拡散によって何らかの軟化機構が生じた可能性が考えられる.以上のように,平成30年度はさらなる高熱負荷試験による機器健全性の確認に加えて,接合部に靭性が発現したメカニズムの解明についても考察が進展した.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定では,平成30年度は小型のW/BNi-6/GlidCop(ODS-Cu)製ダイバータ受熱機器試験体に対して,核融合科学研究所設置の超高熱負荷試験装置(ACT2)を用いてさらなる高い熱負荷値での試験を計画し,その目標は定常熱負荷で~20MW/m^2であった.これに対して,実際には~24MW/m^2の定常熱負荷の試験に成功し,機器健全性を確認した.これだけでなく,当初予定していなかった3秒間のパルス熱負荷試験も実施し,~30MW/m^2程度までの繰り返し熱負荷に耐えられる事も確認した.これらの事実から,小型のW/BNi-6/GlidCop製ダイバータ受熱機器試験体は,当初予想していた性能を上回る除熱性能を持つ事が示された.したがって,当初の計画以上に研究が順調に進展していると言える.さらに,当初は予定していなかった接合継手部の詳細な硬さ試験を実施したことにより,接合継手がなぜ優れた靭性を獲得できているのかを実験的考察から明らかにすることができた.この考察により,製作したW/BNi-6/GlidCop製ダイバータ受熱機器試験体がなぜ高い除熱性能と優れた機械的健全性を兼ね備えているのかについての物理的説明が可能となり,さらに高性能なダイバータ受熱機器試験体の開発に重要な知見をもたらした.この事実も当初の計画以上に研究が順調に進展していると言える一つの要因である.
平成31年度は,大型のW/BNi-6/GlidCop(ODS-Cu)製ダイバータ受熱機器試験体の製造を行い,核融合科学研究所設置の超高熱負荷試験装置(ACT2)による実機環境に近い熱負荷試験を実施する.「大型」の定義としては,まずは核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)のダイバータ受熱機器のサイズを想定している.ACT2での熱負荷試験時は,試験体の複数の箇所に熱電対を設置し.温度分布をできるだけ詳細に取得する.これにより,どの領域の除熱性能を改良しなければならないのかについての知見を得る.この結果を基に,冷却流路の設計に改良を重ね,改良した冷却流路を有する大型試験体の製造を行う.冷却流路設計の改良と熱負荷試験の繰り返しにより,最終的に最適な冷却流路を有する大型のW/BNi-6/GlidCop製ダイバータ受熱機器の設計指針を確立させる.
当初の計画では,計算用コンピュータを購入予定であったが,現在使用中の古いコンピュータでも一時的に対応できる事がわかったので,この分の残金を次年度の旅費等へ配分する方針に切り替えた.また,当初の計画では熱負荷試験用の冷却輻射シールドを増強する計画であったが,熱負荷の面積を工夫する事で輻射シールドの過度な温度上昇を抑えられる事がわかったので,増強計画の実施の必要性を検討すべきであると判断し,この分の支出を次年度以降に見送った.以上の理由から,次年度使用額が生じた.
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Nuclear Materials and Energy
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