研究課題/領域番号 |
17K06998
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
田中 将裕 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (00435520)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 排気ガス組成 / トリチウム / 物質収支 / トリチウム化学形態 / プラズマ対向壁材料 |
研究実績の概要 |
核融合炉の燃料であるトリチウムの取り扱いでは、漏洩や被ばく低減対策、計量管理が重要である。そのため、核融合システム内のトリチウム物質収支やその挙動、真空容器内に滞留するトリチウム料を把握することが肝要である。しかし、核融合プラズマ装置内の水素同位体挙動は、プラズマと対向壁との相互作用により、単純な残留ガス挙動とは異なることが知られている。平成29年3月から重水素プラズマ実験を開始した大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマ対向壁に炭素材とステンレス鋼を使用している。異なる材料が用いられた真空容器における水素同位体(トリチウム)の挙動は、これまでに明らかにされていない。本研究では、重水素核融合反応でプラズマ中に生成されるトリチウムに着目し、トリチウム生成量測定と排気ガス組成分析から、トリチウム放出挙動・物質収支を解析し、実環境下におけるトリチウム挙動の解明を行った。 平成29年度は、重水素プラズマ実験初年度の排気ガス分析を行い、トリチウムの放出挙動を観測した。その結果次のことが確認された。1. トリチウムの排気経路は、真空排気装置から89%、残りが壁調整運転であった。2. 放電洗浄によるトリチウム放出では、物理スパッタリングよりも水素同位体交換反応が効果的であった。3. 材料表面のトリチウムが除去された後は、拡散過程がトリチウム放出の律速過程であった。4. トリチウムの化学形態は、炭化水素状が平均3.2%であった。全炭素壁であるJT-60Uの結果と比較すると約2/3であり、対向壁材料の影響を示唆している。一方で、ガスクロ装置での排気ガス組成分析では、炭化水素成分が検出できなかった。ガスクロ装置(TCD検出器)の検出下限値(10ppm)を下回っていると考えられる。研究実施計画で提案したFTIR法による分析に着手し、長光路ガスセルを整備し、その基本性能評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は実施計画に基づいて、LHD重水素プラズマ実験期間中の排気ガス組成分析を実施し、重水素実験初年度の観測結果を得ることができた。得られたデータから、トリチウム物質収支や排出トリチウム化学形態、放電洗浄時のトリチウム排出挙動を評価し、既存のJT-60Uで報告されたデータと比較検討を行った。測定結果を考察してデータ解析手法を新たに提案し、大型核融合装置からのトリチウム排出経路を弁別することに成功した。得られた初期結果は、国際会議などで発表を行った。また、当初の計画通り、排気ガス中炭化水素成分検出を目的とするFTIR用長光路ガスセルを整備し、その基礎性能評価に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、二年目となるLHD重水素プラズマ実験の排気ガス組成分析を実施する。真空容器内には初年度の実験後に残留したトリチウムが残留しており、トリチウムインベントリが放出挙動に影響することが予測される。 低濃度の炭化水素形態の測定を行うため、FTIR測定システムを設置する。プラズマ実験期間中は、機器設置場所への立ち入りが制限されるため、PLCを用いた遠隔自動サンプリングシステムを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
測定に用いる消耗品は、研究所で保有している既存の部品などを使用することができたため、新規購入分が少なかった。また、学会参加費および出張旅費を抑えることができたため、残額が生じた。今年度は、FTIR装置を管理区域内に移設すると共に、管理区域内で使用するためのFTIR用窒素ガス製造装置を購入する。また、研究成果報告として、国内学会と国際会議での発表を計画しており、その旅費および参加費として使用する予定である。
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