研究課題
前年度に引き続き、血液提供者(健常人ボランティア)5名より得た末梢血にガンマ線照射(0~300 mGy)して得られたリンパ球染色体標本を用いて、1、2、4番染色体ペインティングプローブを同時に用いた3色FISH解析を行い、二動原体染色体および転座染色体を指標とした線量効果曲線(検量線)を作製した。うち1名についてはより高い線量についても標本作製を実施することができている(500~2000 mGy)。健常人ボランティア5個体(25~35歳1名、36~45歳2名、46~55歳1名、56歳以上1名)のバックグラウンド値について、「IAEA 染色体線量評価マニュアル」(国際原子力機関、2011年刊行)に掲載されている年齢補正計算式の導入を試みた。さらに、研究倫理審査および同意取得を経て得られた低線量被ばく患者5名(20代~60代の放射線業務従事者)について、3色FISH解析およびギムザ染色による二動原体分析を行い、比較した。3色FISH解析については、最も年齢の近い個体由来検量線による線量推定、およびIAEA式年齢補正計算式を適用した線量推定を行った。以上の試験から、実年齢差よりも個体差(あるいは生物学的個体年齢差)のほうが大きい可能性が明らかになった。今後、年齢補正についてはより検証が必要であるといえる。高線量局所被ばくの検討として、医療被ばく者保管検体(心臓カテーテル検査を受けた1名)について、従来のギムザ染色による二動原体分析と3色FISH解析の比較を行った。その結果、局所被ばくの局所率(体積比)や推定線量はほぼ一致し、局所被ばく線量評価に対する3色FISH解析の有用性が示唆された。
3: やや遅れている
500~2000 mGyの照射血に関する実験解析が遅れている。理由は、厚生労働省の調査で被ばく者染色体検査を依頼され、2018年10月から2019年3月までに62検の採血・細胞培養・染色体分析に時間を割かざるを得なかったためである。本来2014年~2018年度の間に受け入れる計画の検査であったが、同意取得等の遅れがあった等の理由により、最終年度の10月になってようやく血液採取が開始され、一度にたくさんの検体を受け入れることとなった。
1)検量効果曲線について、500~2000 mGyのデータ補強を行う。2)年齢補正式の再検討を行い、検量効果曲線の改善策を検討する。3)計画書通り、線量の過小評価につながる細胞動態(細胞分裂回数)の影響を検討する。加えて3色FISH解析の検出能を検討する。4)線量効果曲線を用いて、物理線量の分かっている実際の被ばく患者のデータを挿入し、線量推定を行い、有用性や検出限界を検討する。5)今年度の先行調査により、3色FISH交換型染色体異常解析の自動解析ソフトウェアは存在せず、自ら開発する必要があることが分かったため、試験的開発を行う予定である。
2018年10月~2019年3月に東電福島原発事故緊急時(2011年3月~12月)作業者62名の線量評価依頼を受け入れたことにより、本研究に関しては6ヶ月程度の遅れが生じている。2019年度は繰り越し分を用いて追加の染色体画像データ解析(消耗品費、謝金)、論文投稿費用または国内学会参加費用に充てる予定である。
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Radiation Protection Dosimetry
巻: 182 ページ: 128-138
10.1093/rpd/ncy137