研究課題/領域番号 |
17K07032
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤枝 一郎 立命館大学, 理工学部, 教授 (90367996)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光 / 自己吸収 / 異方性 / 光線追跡 / 吸収確率分布 / 再発光 / 蛍光スペクトル / 配向 |
研究実績の概要 |
表示機能を有する発電装置(発電するディスプレイ)の性能は,主に蛍光体内の自己吸収により制限される.H29年度は,主にこの現象に関わるモデルの構築と実験による検証に取り組んだ.具体的には以下の通りである. 一般に,車のヘッドライトやプロジェクタの光源にはセラミクス蛍光体が用いられる.セラミクス蛍光体は粒状なので光がよく散乱される.このため通常は自己吸収の影響は無視される.一方,発電するディスプレイでは,光を横方向へ伝搬させために一様な蛍光体層を用いる.ここでは光の散乱は無視でき,自己吸収が重要になる.従来の解析の手法は適用できないため,一様な蛍光体層からの光取り出し過程に関するモデルを新たに提案し,実験で検証した.この成果は応用物理学分野の学会誌(AIP Advances)に10月に掲載された. また,異方的な媒体中での蛍光の自己吸収と再発光の現象について,以下の手順でモデル化した.まず,文献と過去の我々の実験に基づいて,蛍光材料の特性を入力パラメータとして定めた.次に,蛍光体分子を2枚の透明基板の中に配置し,特定の角度分布で蛍光を発生させ,個々の光線を追跡した.このとき,基板から漏れ出る光と,蛍光体に吸収される光の座標と確率を記録した.放射角を様々に設定して以上の手順を繰り返すことにより,透明基板を伝搬する蛍光が吸収される確率の分布を求めた.更に,再発光はこの吸収確率に比例すると仮定してこれを決定した.以上の手順を実行した結果,蛍光材料の配向条件と蛍光の偏光状態に依存して吸収確率分布が変化することと,再発光の確率は無視できるほど小さいことが明らかになった.また,透明基板の厚さを含む幾何条件が重要な設計パラメータであることが分かった.以上の成果は3月の応用物理学会講演会で報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
発電するディスプレイでは,蛍光体を含む媒体の表面から取り出される蛍光は表示に,端面から取り出される蛍光は発電に,それぞれ利用される.従って,表面と端面の2つの場合について光の取り出し過程を解析する必要がある.H29年度には,表面から取り出される蛍光についてモデル化と実験による検証を完了した.この過程で,いくつかの知見が明らかになった.即ち,蛍光スペクトルが放射角度に依存すること,励起光の透過率が重要な設計パラメータであること,励起光が入射する表面から放射される蛍光の強度は他方の表面からの蛍光の強度より常に大きくなること,等である.これらの知見は,真の発光スペクトルを得るための分析技術として応用の可能性もある. 蛍光体の応用素子では自己吸収により光取り出しの効率が低くなる.これは発電するディスプレイに固有の問題ではなく,従来の光源への応用にも当てはまる.そこで,自己吸収を低減するための構成を考案した.即ち,蛍光体層をパターン化して反射体を配置する構成により,蛍光の一部は蛍光体層へ突入することなく外部へ取り出せる.初期の実験結果は12月と3月の学会で発表した.この件は当初の計画にはなかった成果である. 以上の研究の進捗に加えて,成果の公表活動を以下の通り実施した.4月に,コンセプトの実証実験に関わる論文が応用光学分野の学会誌(SPIE J. Photon. Energy)に掲載された.5月には,この論文が学会のホームページ(SPIE Press Release)で紹介された.8月にはJST Innovation Japan(東京ビッグサイト)で発電と表示の機能を実演し,1月には高専や総務省向けの情報誌(電波技術協会誌FORN)に解説論文が掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度には,10cm角のプロトタイプを試作して画像表示と発電を実演する.試作においては,薄い蛍光体層を透明基板で挟み,その端面に太陽電池を設置し,青色レーザー光の強度を変調してこれに照射する.太陽電池の評価に用いられる標準の手法を用いて,プロトタイプの発電効率を評価する.表示画像の分解能はテストチャートを表示させたプロトタイプの写真を撮影して評価する.更に, 15cm角,20cm角,と大面積化して,自己吸収の影響を確認する.H31年度には,小型のモジュールをタイル化する手法を用いて大型化に取り組む.ここで,モジュールの境界を目立たなくすることと,同時に自己吸収を低減することが鍵になる.出力カプラを用いる手法については既に提案している.以上の内容は当初の計画通りである. また,H30年度には次の2つの課題に取り組み,H29年度の成果を更に進展させる.第一に,蛍光体を含む媒体の端面から蛍光が放射される現象に関して,自己吸収を考慮したモデルを構築し,実験により検証する.表面からの光取り出し過程は既にモデル化したので,この手法を発展させることで,早期に実現できるはずである.第二に,パターン化した蛍光体層と反射構造について,検証実験を継続する.具体的には,蛍光体層の形状と反射体との位置関係をパラメータとして変化させ,端面に到達する蛍光の強度への影響を調べることにより,自己吸収の影響を低減するための幾何条件を見出す. 蛍光体層のパターン化と反射体の構成は当初の予定にはなかった課題で,この成果は光源への応用の可能性がある.また,自己吸収を定量化する手法は,光の入射位置の検出に利用できる.この技術は工場の自動化や放射線モニタリングへ応用の可能性がある.これらの研究も本研究の波及効果として大きく発展させたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
区切りのよい所まで実験が進展したため,次年度に実験の消耗品の購入に充当するのが合理的と判断した.実験遂行のための物品(消耗品)の購入に充当する.
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