研究課題/領域番号 |
17K07032
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤枝 一郎 立命館大学, 理工学部, 教授 (90367996)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光 / 発電 / ディスプレイ / カラー画像表示 / コントラスト / 自己吸収 / スペクトル / 位置検出器 |
研究実績の概要 |
前年度までの実績はモノクロ表示のプロジェクタに関する内容であった.H30年度にはカラー表示と装置の薄型化の実現可能性を示した.更に,関連の物理現象を利用して位置検出器を大型化できることを示した.これらの3つの実績について以下に順に説明する. 第一に,透明基板の表面に形成した溝に3種のセラミクス蛍光体を埋め込んで蛍光スクリーン(5cm角)を試作した.これに青色レーザー光の強度を変調して投射することによりカラープロジェクタの動作を実証した.この成果は12月に国際会議IDWの展示会で実演した.更に,試作品の発電効率,色域,等を評価した.これらの成果は5月の国際会議SID Display Symposiumで報告する予定である.課題は,発電効率がモノクロ型の約1/3000と極端に低い点である.この原因はセラミクス蛍光体が光を散乱するためである. 第二に,蛍光体層を表面に塗布した透明基板に液晶パネルを積層する直視型の構成を考案した.これにより携帯機器への搭載が可能になる.携帯機器の構成要素に発電機能を付与することは大きな意味を持つ.また,透過型液晶や有機ELディスプレイでは明所で視認性が著しく劣化するのに対して,この構成では表示画像のコントラストが周囲の照度に依存せず一定になる.更に,反射型液晶ディスプレイに対しても色域が安定するという利点がある.以上の成果は特許出願(特願2018-229069)と国際会議IDW 2018での発表につながった. 第三に,蛍光体自体が蛍光を吸収する現象(自己吸収)を位置検出器に応用できることを実証した.即ち,蛍光導光体内を伝搬する距離に依存してスペクトルが変化するため,スペクトルの変化から伝搬距離を決定できる.この成果は特許出願(特願2018-080259),国際会議SPIE Optics+Photonicsでの発表につながった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複数の小型モジュールを並べて大面積の装置を実現する研究と,蛍光材料内での自己吸収を位置検出器へ応用する研究に取り組んだ.前者は目的を大面積化からカラー表示と薄型化に変更して,後者は計画通りに遂行して,共に当初の計画を上回る成果が得られた.以下に順に説明する. 前者については,入手可能な蛍光材料を用いる限りモジュールの境界を完全に見えなくすることは困難と判断した.そこで,プラズマディスプレイやバックライト用に開発されたセラミクス蛍光体3種を用いて,カラー表示の実現を目指すことにした.結果的にこの判断が功を奏し,カラー表示の実演という当初の計画には無かった大きな成果が得られた.但し,発電効率はモノクロ表示のプロジェクタに比べて極めて低く,色域についても本来の蛍光体の性能を活かしきれていない.更に,クロストークにより表示画像のコントラストが劣化する課題も明らかになった.一方,長年に渡り企業でディスプレイの研究開発に携わった繁田光浩博士が4月に本学に着任された.繁田博士と本研究の方向性について議論する中で,液晶パネルと積層すれば装置を薄型化できるという発想を得た.携帯機器向けのディスプレイに発電機能を付与する意義は大きい.従って,この成果も当初の計画を上回っている. 後者の位置検出器への応用については,前年度の1月頃に着想して実験の準備を進めていた. 4月に本学に着任された堤康宏博士の協力を得て,この研究は原理の実証実験から検出範囲の拡大へと順調に進展した.当初の計画では1次元検出器だったが,蛍光材料を2種類用いて,更に光量分割という従来の検出原理と組み合わせる手法により,検出範囲を2次元に拡張できた.この技術は工場の自動化や放射線モニタリングへ応用の可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
第一に,本装置の発電量を設計するためのモデルを確立する.まず,導光体の1点に光を入射させて蛍光材料を励起し,放射された蛍光が導光体の端面に到達する確率を求める.ここで,導光中の蛍光の減衰を考慮するためにランバート則を適用する.得られた確率を入射点の関数として表した結果は,光学の点像分布関数に相当する.この関数が全ての座標の関数として求まれば,任意の強度パターンの入射光について装置の発電量を計算できる.次に,実験によりこのモデルを検証する.実験結果を再現できない場合には,吸収された蛍光のエネルギーの一部が再び蛍光に変換される再発光の現象をモデルに追加して,実験結果を再現する.こうして設計論を確立できれば,一般の(表示機能を持たない)蛍光材料に基づく太陽光発電装置へも適用できる. 第二に,本装置の表示性能(コントラスト,色域)を評価し,そのメカニズムを明らかにする.プロジェクタ型の構成では,前述の1点励起の実験によりクロストークの放射パターンを評価する.更に,導光体内での蛍光の伝搬を考慮したモデルを構築し,クロストークの現象を説明する.直視型の構成では,コントラストが周囲の照度に依存しないことを示す.透過型液晶ディスプレイのコントラストを同様にして評価して,本構成の優位性を明らかにする.更に,導光体の光の入射面に反射防止膜を配置することでコントラストの向上を目指す. 第三に,位置検出器の高感度化を実現する.分光器で蛍光スペクトルを取得する構成では感度が低いため,新たな構成を検討する.即ち,回折格子に代えてダイクロイックフィルタを用い,波長分離した蛍光を高感度の光検出器(例えばシリコン光電子増倍管)へ導く構成が有望である.片側のみで信号検出するファイバ型の位置検出器は,例えば放射線治療の線量モニタに応用できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
区切りのよい所まで実験が進展したため,次年度に解析用のソフトウェアのライセンス契約に充当するのが合理的と判断した.実験遂行のための物品(消耗品)の購入に充当する.
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