研究課題/領域番号 |
17K07036
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研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
山口 利幸 和歌山工業高等専門学校, 電気情報工学科, 教授 (60191235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エネルギー生成・変換 / 薄膜太陽電池 / カルコゲナイド / アルカリ金属 |
研究実績の概要 |
福島原発事故以来、再生可能エネルギーへの期待が一層高まり、安全・安心な太陽光発電が注目されている。将来の普及拡大に向けた課題は、資源的制約の無い、低コストな太陽電池を開発することである。本研究では、稀少元素のInやGaを含まず、資源上の制約が少なく、原材料費が安価であるという利点を持っている、次世代型のカルコゲナイド薄膜太陽電池の性能向上を目指して、成膜技術を検討することを目的とする。 連続成膜法を活用したCu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池の作製において、Cu2ZnSnSe4化合物を蒸着材料に用いて基板加熱温度を変化させた結果、500℃以下ではCu2SnSe3を含む化合物になり、その後の硫化処理によってCu2ZnSn(S,Se)4が形成される新たな結晶化プロセスを見出した。さらに、連続成膜時にアルカリ金属のカリウムを添加することでCu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池の開放電圧が、カリウムなしの406mVから698mVへ大幅に改善されることが明らかになった。 Cu2SnS3薄膜太陽電池の作製において、アルカリ金属のNaやKを添加した上で、大気中熱処理の工程を追加することで太陽電池の開放電圧の向上が見い出された。また、銀をドーピングした(Cu,Ag)2SnS3薄膜を作製し、Ag/(Cu+Ag)=0.1程度までは混晶化が可能であり、銀の添加量を増加させると格子定数やバンドギャップが増加することを明らかにした。さらに、(Cu,Ag)2SnS3薄膜太陽電池を世界で初めて作製し、銀の添加とともに開放電圧の増加を確認し、変換効率4.07%を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、稀少元素のInやGaを含まず、資源上の制約が少なく、原材料費が安価であるという利点を持っている、次世代型のカルコゲナイド薄膜のCu2ZnSn(S,Se)4や(Cu,Ag)2SnS3薄膜を用いた太陽電池の高性能化を目指して、成膜技術を検討することを目的として実施している。 申請時の課題として、太陽電池の開放電圧が小さいことによる変換効率の低さを挙げていた。今回、Cu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池の成膜技術の一つである基板温度を検討する中で、新たな結晶化プロセスを見出したことは世界初の発見である。さらに、本方法を用いることで太陽電池の開放電圧が飛躍的に向上したことは注目すべき点である。 また、Cu2SnS3薄膜太陽電池においては銀をドーピングすることの有効性を示し、変換効率4.07% の(Cu,Ag)2SnS3薄膜太陽電池を世界で初めて作製したことは大きな進展である。 以上の理由より、3年計画の初年度の実績としては「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、カルコゲナイド薄膜のCu2ZnSn(S,Se)4や(Cu,Ag)2SnS3薄膜を用いた太陽電池の性能向上を目指して、成膜条件を検討する。 Cu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池については、本研究の初年度に見出した新たな結晶化プロセスを用いて、Cu2ZnSn(S,Se)4薄膜や太陽電池の作製条件を検討する。IBMによるhydrazine溶液を用いたCu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池ではS/(S+Se)=0.05(バンドギャップが約1.1eV)で世界最高効率の12.6%を得ているが、太陽光スペクトルに整合する活性層のバンドギャップの理論最適値は1.4~1.5eVであり、S/(S+Se)比が0.8~1.0になる。そのため、新たな結晶化プロセスの成膜技術を基本にS/(S+Se)比=0.8~1.0の混晶比を含めてCu2ZnSn(S,Se)4薄膜太陽電池のさらなる向上を目指す。特に、新たな結晶化プロセスにおける結晶化温度の影響を調べる。 Cu2SnS3薄膜太陽電池については、初年度の結果から、酸素の関与が太陽電池特性の向上に寄与する可能性が見られたことから、成膜時の酸素の影響を調べる。その上で、Na、K、Agを複合的に活用する場合の最適な順番や方法などを検討し、より高い変換効率の向上を目指す。
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