発達期の神経系では、いったん過剰に作られたシナプスが適切な数に調整されることで回路が成熟していく。この発達期回路再編の過程において、シナプス前軸索同士は競合しながら標的細胞とのシナプス接続を奪い合うことになるが、単一軸索レベルの投射解析は技術的に容易ではないことから、どのような原理によって軸索投射が再編されるのかについてはまだほとんど理解が進んでいない。本研究では、申請者が独自に確立した脊椎動物局所神経回路における軸索投射の再編過程を評価できる実験システムを用いて、軸索の標的支配は競合相手の数に依存するのか?という発達期回路再編の根幹を成す問いに対して実験的に回答を得ることで、基盤原理を明らかにすることを目的とする。 これまでの研究により、計画に掲げたシナプス前後のニューロン数の定量解析法、人為的なアポトーシス誘導によるニューロン数比への介入法、軸索投射パターンの定量解析法をそれぞれ確立し、それらを組み合わせることで、軸索の標的支配は競合相手の数に依存しないことを示唆する結果が得られた。この結果の背景には、軸索の標的支配数を運命づけるメカニズムが存在する可能性がある。そこで最終年度では、軸索投射パターンの形態決定に関わる遺伝子を効率的にスクリーニングするための実験系を構築した。具体的にはCRISPR/Cas9と条件的発現系を組み合わせることで、95%に達する高いKO効率と軸索の高強度の可視化を同時に実現することができた。軸索投射パターンに関わる分子メカニズムを明らかにするうえで強力な方法となると期待できる。
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