研究課題/領域番号 |
17K07041
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古久保 克男 (徳永克男) 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00272154)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / シナプス / 統合失調症 / 遺伝学 / DISC1 |
研究実績の概要 |
近年、様々な精神疾患の大規模な遺伝子関連解析により、多数のリスク遺伝子が同定され、発症機構の遺伝的要因の解明に重要な手がかりが得られつつある。本研究では、ヒト精神疾患の重要な遺伝子であるDISC1をてがかりとして、ショウジョウバエ遺伝学を使用してリスク遺伝子相互作用の解析を推進してきた。これまでに様々な精神疾患リスク遺伝子のショウジョウバエ変異体においてDISC1を発現させ、シナプス形成機構の変化を解析することにより、多数の相互作用遺伝子を同定した。今年度は、昨年度に引き続き、自閉症や精神遅滞などの多様な精神疾患に関与するNeurexin遺伝子について行動レベルでの解析を行うとともに、あらたに NeuroliginとFMR1遺伝子に焦点を当て解析を行った。 後シナプス構造の形成について解析を行い、Neurexin ヘテロ接合変異体では DISC1 過剰発現が 後シナプスタンパクの特異的局在を阻害することが示された。さらに、幼虫を使用した行動解析により、DISC1 を過剰発現するNeurexin ヘテロ接合変異体で、運動速度の有意な低下が見られることを明らかにした。 一方、Neuroliginは後シナプスにおけるNeurexinに対する接着パートナーであり、Neurexinとともにシナプスの形成と可塑性を制御している。NeurexinとDISC1との遺伝学的相互作用をさらに解析するために、Neuroligin変異体を使用してとDISC1との相互作用について検討した。その結果、Neuroliginについてもシナプス形態形成過程においてDISC1との相互作用を支持する結果を得た。 一方、FMR1遺伝子についてもDISC1との遺伝学的相互作用の解析を進めた。これにより、野生型ではDISC1強制発現がシナプス総面積を減少させるのに対し、FMR1ヘテロ接合変異体では、DISC1強制発現によりシナプス総面積は変化せずに、代わってシナプス総数が有意に減少する事が明らになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DISC1遺伝子と精神疾患リスク遺伝子との遺伝学的な相互作用の解析を推進し、Neurexinにくわえて、Neuroliginについてシナプス形成における相互作用を明らかにすることができた。一方、Neurexin遺伝子に加えて、RNA結合タンパクをコードし、多数のシナプス遺伝子の発現を制御することが知られているFMR1についてもDISC1と相互作用する結果を得た。FMR1変異体はそれ自身が前シナプス終末構造に異常を示す。しかしながら、DISC1過剰発現はこの前シナプス終末構造異常を部分的ながら抑制する事を明らかにすることができた。生化学的解析により明らかにされたDISC1結合タンパクの多くがFMR1標的因子と重複しており、我々の結果は、両遺伝子が生体内におけるシナプス形成過程において分子レベルで相互作用していることを支持している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに同定した遺伝子とDISC1との相互作用を分子レベルで明らかにするために、in vivoにおけるタンパク質複合体の形成の可能性をProximity Ligation Assayにより解析し、DISC1遺伝子とリスク遺伝子がどのようにシナプス形成に関与するか、より具体的な作用機序を明らかにする。また、シナプス可塑性と神経機能に対する影響を明らかにするために、ショウジョウバエ神経筋結合部を材料とした電気生理学的解析をおこない、DISC1と相互作用因子がシナプスの生理学的機能をどのように協調的に制御するか明らかにする。さらに、精神疾患リスク遺伝子が認知行動に与える影響について、申請者が開発した人為的記憶形成システムを使用して解析する。この実験系では、記憶形成に関与する神経回路を、光と熱によって活性化し、ハエに人為的な記憶を形成することができる。この実験系に、DISC1と同定した疾患リスク遺伝子のRNAiコンストラクトを組み込み、シナプス形成に加えて、高次行動レベルに与える影響を明らかにする。また、ヒトにおける相互作用を解析するために、患者由来のiPS細胞を使用して神経細胞を分化させ、同定した遺伝子とDISC1遺伝子の多重変異がもたらす神経異常を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の価格に端数が生じたため。翌年度分の物品費に合わせて使用する予定である。
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