動物の多様な運動は、適切な時空間パターンによって個々の筋細胞が収縮することで実現します。泳法に例えれば、クロールと平泳ぎと背泳ぎでは、腕や脚の筋収縮パターンは明らかに異なります。これらの相異なる運動出力を生み出すために、運動神経細胞、およびそれらを直接・間接に神経支配する介在神経細胞は、相異なる活動パターンを示す必要があります。本研究では、神経回路が筋収縮という同一の制御対象に対して、相異なる時空間パターンの運動出力を生み出す機構を、ショウジョウバエ幼虫の運動をモデルとして細胞レベルで明らかにすることを目指しました。 ショウジョウバエ幼虫は、前進運動と後進運動という相異なる運動パターンを示します。前進運動、後進運動それぞれで特異的な活動を示す介在神経細胞として、前進運動特異的なIfb-Fwd細胞、および後進運動特異的なIfb-Bwd細胞を同定しました。興味深いことにこれらの細胞は、同一の運動神経細胞群を神経支配していました。このことは、中枢神経系において、同時に収縮する筋肉を制御する運動神経細胞は、モジュール(「ひとかたまり」)として配線されており、異なる運動パターン生成を担う上流の介在神経細胞が適切なタイミングでこれらのモジュール回路を呼び出すという、効率のよいしくみがあることが明らかになりました。 Ifb-Fwd細胞やIfb-Bwd細胞は、運動神経細胞から数えて、回路上2つの細胞分上流にある細胞でしたが、さらに上流にある運動パターン特異的な介在神経細胞の探索を行ないました。その結果、前進運動特異的に強く活動する介在神経細胞YT1細胞を同定しました。このことから、中枢神経系内の上流においても、異なる運動パターンを生成するモジュール構造が備わっていることが明らかになりました。
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