研究課題
海馬は記憶・学習に不可欠な脳領域である。視床下部に位置する乳頭体上核は海馬のCA2と歯状回へ投射しており、海馬シータ波の活動を調節することが知られている。さらに最近、この投射が睡眠に関わることも示唆された。しかし、これまで、乳頭体上核が海馬のどういった種類のニューロンとシナプスを形成して海馬ニューロンの興奮を調節しているのかに関して、ほとんど詳しく調べられてこなかった。本研究では乳頭体上核ー海馬シナプスの結合様式を神経回路レベルで明らかにすることを目的とする。さらに分子・シナプスレベルにおいて乳頭体上核が海馬に及ぼすシナプス可塑性への寄与を明らかにする。最後に、乳頭体上核から海馬への投射の役割を記憶・情動・睡眠に焦点を絞り、システムレベルで明らかにすることを目指す。平成29年度はアデノ随伴ウィルスを使ってチャネルロドプシン-2を乳頭体上核に発現させ、急性海馬スライス標本から電気生理学的解析を行った。海馬歯状回の顆粒細胞からホールセルパッチクランプを行い、LEDによる青色波長の光照射を行った。結果、興奮性のシナプス応答が記録された。さらに膜電位を変えることにより、抑制性のシナプス応答も記録され、両方の入力のあることがわかった。同様に歯状回の抑制性ニューロンから記録を行い興奮性、抑制性両方のシナプス応答が記録された。これらのシナプス伝達をさらに詳しく解析したところ、乳頭体上核から直接入力されるシナプス伝達であることがわかった。一方、歯状回門に存在する興奮性の苔状細胞から記録を行った場合にはほとんど反応が無く、シナプス結合がないことがわかった。しかし、多シナプス性の抑制性入力が頻繁に観察されたことから、乳頭体上核から苔状細胞へとフィードフォワード抑制のあることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は計画どおりに乳頭体上核と海馬ニューロンのシナプス結合の解析を電気生理学と光遺伝学を組み合わせて行うことができた。その結果、乳頭体上核のニューロンから海馬歯状回の顆粒細胞と抑制性ニューロンへと興奮性と抑制性の両方の投射のあることを明らかにした。さらに苔状細胞への直接投射は無く、フィードフォワード抑制が存在することを明らかにした。以上の結果から本年度はおおむね順調に進展していると言える。
今後は本年度明らかにしたシナプス結合間においてどのような調節機構や役割があるのか調べる。とくにシナプス可塑性に関して詳しく調べる予定である。さらに興奮と抑制の両方の入力があるが正味としてシナプス後部のニューロンにどのように作用するのか今後明らかにする。
今年度は乳頭体上核から海馬歯状回への投射を調べた。アデノ随伴ウイルスを使ってチャネルロドプシンー2を乳頭体上核ニューロンに発現させた。実験手技の向上に伴って、当初の予想以上に効率的にウイルスを使用することができた。そのためウイルス購入の費用が減ったことによる。次年度は特に、乳頭体上核-海馬歯状回ニューロン間のシナプス可塑性に関わる分子メカニズムを調べる。その実験のために必要な試薬やウィルス作成に必要な消耗品に充てる予定である。
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