視床下部に位置する乳頭体上核は海馬の歯状回およびCA2へと投射し、海馬の活動を調節することが知られている。昨年度までの研究により乳頭体上核ニューロンは歯状回の顆粒細胞および抑制性ニューロンとシナプス結合することを明らかにした。さらにこれらのシナプスにおいて興奮性のグルタミン酸および抑制性のGABAという相反する作用を持つ神経伝達物質が同じ神経終末から共放出されることを見出した。 本年度はこのグルタミン酸とGABAの共放出が歯状回情報処理において、どのような効果を持つのか調べ、以下の結果を得た。 (1)なるべく非侵襲的に神経細胞から電気応答を記録するためにcell-attachedにより顆粒細胞あるいは抑制性ニューロンから測定した。この方法により乳頭体上核からの入力によるスパイク応答を測定した結果、顆粒細胞ではまったくスパイクが観察されなかった。いっぽう、抑制性ニューロンからの記録では約40%の細胞でスパイクが発生した。それぞれの細胞においてGABA入力を遮断しても結果は変わらなかった。 (2)乳頭体上核から顆粒細胞への入力は細胞を発火させるほど強くないことから、他の入力との連合性を調べた。その結果、乳頭体上核からの入力と貫通線維入力が同期すると効果的に顆粒細胞を発火させられることがわかった。またGABA入力を遮断しても結果は変わらなかったことからグルタミン酸による興奮の作用のほうが強いことがわかった。 以上、研究期間全体を通じての研究により、乳頭体上核から歯状回への機能的なシナプス結合様式を詳細に明らかにすることができた。
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