研究課題/領域番号 |
17K07050
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
田中 繁 電気通信大学, 脳・医工学研究センター, 特任教授 (70281706)
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研究分担者 |
宮下 真信 沼津工業高等専門学校, 制御情報工学科, 教授 (20443038)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 特徴抽出 / ダイナミックニューロンモデル / 視覚特徴量分散表現 / スパースコーディング / デコーディング |
研究実績の概要 |
2018年度には、自己組織化モデルによって形成された外側膝状体-視覚野投射と近距離興奮結合-遠距離抑制結合のメキシカンハット型の皮質内相互結合を視覚野回路に埋め込まれたIFニューロンのダイナミクスのコンピュータシミュレーションを実行し、静的縞刺激の呈示に対して反応するニューロンと、反応しないニューロンに視覚野ニューロンが明確に二分されることを確認した。これによって、ある程度空間的にスパースな情報表現が形成され得ることを示した。2019年度は、2018年度と同じモデルを用いて、ドリフトする動的縞刺激に対してどのようにモデル視覚野ニューロンが反応するのかをシミュレーションによって調べた。その結果、ミリ秒単位で視覚野の発火パターンを見ると、極めてスパースにニューロンが活動していることがわかった。次に、自己組織化モデルによって形成された各視覚野ニューロンの時空間受容野を求め、発火パターンと各ニューロンの時空間受容野を畳み込むことで呈示刺激のデコーディングを試みた。その結果、ドリフトする縞刺激を呈示したときに生じる視覚野ニューロンの発火パターンから、元のドリフトする縞刺激を再現することができた。このことから、様々な形態の抑制性介在ニューロンモデルを作り込むことなく、視覚野では時空間的にスパースに視覚情報は表現(エンコード)されており、瞬間瞬間に発火している小数個のニューロンを用いて動的な視覚像を読み出すこと、すなわち、デコードすることが可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来のスパースコーディング理論では、静的なパターンのデコーディングしか論じられてこなかったが、本研究では、視覚野のネットワークモデルとIFニューロンモデルを用いて動的な視覚刺激のエンコーディングを論じるとともに、極めてスパースな発火パターンから動的な視覚像のデコーディングの可能性を論じることができ、期待以上の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
動的な視覚情報のスパースコーディングを可能にする生物学的なニューロンネットワークモデルとそのネットワークによる視覚情報のデコーディングの数理がわかってきたので、最終年度は三者間シナプスと神経修飾因子の作用をモデルに取り込んで、麻酔下と覚醒時でデコード可能な情報量の差異について論じる。また、「シャンデリア細胞は、視覚野全体の活動レベルを検出し、それに基づいて個々の錐体細胞の活動を調節している」という作業仮説を立て、その働きを組み込むことにより視覚野ネットワークモデルを精緻化し、そのネットワークの視覚情報処理能力について精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者のロコモティブシンドロームのために学会発表等への出張を控えたことにより次年度使用額が生じた。そこで、この額を本研究によって得られた成果の論文発表経費として活用する計画である。
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