研究課題/領域番号 |
17K07056
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 弘 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (80304038)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 神経回路 / マルチニューロン計測 |
研究実績の概要 |
本研究では、階層的に配置された各領野における情報処理様式の特徴を、入力の収斂過程と出力の発散過程に注目することで明らかにすることを目指す。当初研究対象とした大脳皮質4層ー3層間結合の機能的階層構造が不明瞭であったため、研究対象を機能的階層構造が明瞭であるラット視床ー皮質4層間結合に変更した。計測には、麻酔(ウレタン)動 物を用いた。ラット外側膝状体(LGN)から効率的に神経活動を計測するために、電極先端に32個の計測点が密集した電極(NeuroNexus, Poly3)を刺入し、大脳皮質視覚野(V1)には、広範囲から神経活動を計測する目的で、くし状の64ch電極(NeuroNexus, Buzsaki64)を刺入した。くし状の64ch電極は、8本のシャンクを有し、シャンクの先端には8個の計測点が密に存在する。視床-皮質同時計測は、新規に構築した96ch計測システムを用いて実施した。これまで、18匹の動物を用いて同時計測実験を実施した。グレーティング刺激を眼前に設置したディスプレーより提示した。すべての計測において明瞭な視覚応答が計測されており、外側膝状体と大脳皮質視覚野より同時計測が行われていることが確認できた。前年度計測した大脳皮質体性感覚野と視覚野神経活動に対して、一般化線形モデルを適用した解析を行い、感覚野神経細胞のスパイク発火が感覚刺激の有無よりも周囲の細胞の活動状態に依存することを明らかにした。また、大脳皮質体性感覚野からの計測を様々な発達過程の動物において行なった。4層・3層に見られる発火シークエンスの生後発達過程が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究対象としたサル大脳皮質4層ー3層間結合の機能的階層構造が不明瞭であった。そこで研究計画を見直し、研究対象を機能的階層構造が明瞭であるラット視床ー皮質4層間結合に変更した。新規に導入した多細胞計測システムとスパイクソーティング手法を用いて、ラット視床外側膝状体(LGN)32ch計測と大脳皮質視覚野(V1)64ch計測を同時に実施する手法を確立した。この方法を用いて、LGN-V1神経活動同時計測実験を実施した。現在得られたデータを解析中である。ただし、一回の計測でLGNから100細胞、V1から200細胞前後計測されるため、相互相関解析を20000ペアで実施することになる。この膨大なデータを効率よく解析するための手法を開発中である。この他に、これまでに計測したラット大脳皮質体性感覚野と視覚野神経活動に対して、一般化線形モデルを適用した解析を行い、感覚野神経細胞のスパイク発火が感覚刺激の有無よりも周囲の細胞の活動状態に依存することを明らかにした(neuro2019)。また、大脳皮質体性感覚野からの計測を様々な発達過程の動物において行うことで、4層・3層に見られる発火シークエンスの生後発達過程を明らかにした(第97回日本生理学会大会)。さらに、サル皮質領野間で、情報処理のダイナミクスに領野間差異が存在することも見いだした(neuro2019)。原著論文(1件、投稿中1件)、学会発表(13件)を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ラット外側膝状体(LGN)32ch計測と大脳皮質視覚野(V1)64ch同時計測実験により得られたデータについて重点的に解析を進める。特に次の3点に注目して解析を実施する。1)単シナプス性情報伝達様式 : LGN神経細胞に発生した単一スパイクがV1神経細胞のスパイク発火確率をどのように変動させるのかを明らかにする。2)LGN単一神経細胞活動のV1神経細胞集団活動への発散過程:上述の相互相関解析を多細胞集団に発展させることで、外側膝状体単一神経細胞に発生した単一スパイクがV1神経細胞集団に広がる様子を時空間パターンとしてとらえる。時空間での広がりや活動のスパース性に注目して、パラメータを抽出し、発散過程を可視化する。3)LGN神経細胞集団活動のV1単一神経細胞活動への収斂過程:同様の手法を用いて、LGN神経細胞集団活動がV1単一神経細胞活動へと収斂する様子を時空間パターンとしてとらえる。パラメータを抽出し、収斂過程を可視化する。ラット視床後内側腹側核(VPM)32ch計測と大脳皮質体性感覚野(S1)64ch同時計測実験を実施する。得られたデータに対して上述の解析を適用し、領野間比較を行い、情報の収斂・発散過程について、領野間の普遍性・多様性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初研究対象としたサル大脳皮質4層ー3層間結合の機能的階層構造が不明瞭であった。そこで研究計画を見直し、研究対象を機能的階層構造が明瞭であるラット視床ー皮質4層間結合に変更した。ラット視床は多点電極での計測が容易 である。視床に32ch電極、大脳皮質に64ch電極をそれぞれ刺入する。これに伴い96ch計測システムを新たに構築し予備実験を実施した。このため、研究期間の延長が必須となった。物品費(実験動物、薬品、解析用計算機など)に100万円、旅費(国内学会)に10万円、人件費謝金に40万円、その他に40万円使用予定である。
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