研究実績の概要 |
本研究では、階層的に配置された各領野における情報処理様式の特徴を、入力の収斂過程と出力の発散過程に注目することで明らかにすることを目指す。計測に は、麻酔(ウレタン)動物を用いた。ラット外側膝状体(LGN)単一細胞スパイク活動と大脳皮質視覚野(V1)局所電場電位(LFP)を同時に計測した。グレーティング刺激を眼前に設置したディスプレーより呈示した状態での神経活動を計測した。これまでに18匹の動物を用いて計測実験を実施した。LGN神経細胞のスパイク発火に伴い、V1より計測した局所 電場電位に顕著な変動(spike triggered average of LFP, STA-LFP)が観察できた。視床スパイク発火が大脳皮質へと伝達される様子を明らかにする目的で、LGN神経細胞のスパイク発火パターンとSTA-LFP振幅との関係を解析した。この結果、1)LGN神経細胞のスパイク発火頻度、2)LGN神経細胞のスパイク発火パターン、3)LGN神経細胞間に現れるスパイク同期発火の程度、とSTA-LFP振幅の間に関連が存在し、長いスパイク間隔(> 0.5s)の後に短い間隔(<0.02s)で同期的スパイク発火がLGN細胞に生じた際に、皮質において大きなLFPが生じることが明らかになった。この成果は、視床皮質経路における視覚情報符号化に頻度符号、時間符号、同期発火符号が使用されている可能性を示唆する。さらに、同期発火符号化の可能性を検討する目的で、LGN複数単一細胞スパイク活動とV1単一細胞スパイク活動間で相互相関解析を実施した。単一のV1細胞に結合するLGN細胞間で顕著な同期発火が観察された。この同期発火の視覚刺激呈示に対する潜時は、V1細胞の視覚応答潜時に比べて短かった。この結果は、視床細胞間で出現する同期発火が皮質細胞の活動誘発に貢献する可能性を強く示唆している。
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