発達期の小脳皮質では、プルキンエ細胞にシナプス入力する登上線維が複数本から一本になる、シナプス刈り込みと呼ばれる現象が認められる。本研究課題の目的は、このシナプス刈り込み過程におけるミクログリアのはたらきを解明することである。2018年度までに、Csf1r-floxマウスとIba1-Creマウスの交配により作成したミクログリア欠損マウスを用いて、小脳皮質においてミクログリアは生後2週目にプルキンエ細胞への抑制性シナプス伝達の機能的成熟を促進することで登上線維の単一支配化に関与することを示す実験結果を得た。研究成果はNature Communications誌にて論文報告した。 2019年度には、ミクログリアが抑制性シナプス伝達を修飾する際に関与する分子を明らかにするための実験を行った。一般的にミクログリアで発現するいくつかの分子に着目し、登上線維のシナプス刈り込み期にあたる生後10日目の小脳皮質ミクログリアにおける蛋白発現を免疫組織染色で調べたところ、ミクログリアで明らかな発現が認められる分子を認めた。次に、その候補分子がミクログリアによるプルキンエ細胞への抑制性シナプス伝達の機能成熟を媒介する因子である可能性を検討した。生後10-13日目のミクログリア欠損マウスの小脳スライス上のプルキンエ細胞からmIPSCsを記録し、細胞外液への候補因子を投与した時の変化を測定した。その結果、候補因子の投与後にmIPSCsの振幅、頻度ともに増加し、発達同時期の野生型マウスのmIPSCsに近づく傾向が認められた。今後、in vitroでみられた候補因子の作用が生体内でも機能しているか検討するために、Iba1-creマウスを用いて候補因子のミクログリア特異的欠損マウスを作成してシナプス刈り込みへの影響を解析する他、発達期の野生型マウスに候補因子の機能阻害抗体を投与する実験などを行う予定である。
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