研究実績の概要 |
本研究では、終脳をはじめとする様々な脳領域に注目し、その進化的変遷を分子発生学的な視点から明らかにすることを目的とする。平成29年度は、四肢の運動に関わる神経発生機構の変遷について、マウス(哺乳類)、ニワトリ(鳥類)、スッポン(主竜類の姉妹群)、ソメワケササクレヤモリ(鱗竜類)を用いて、神経ガイドに関わるSema3Aの発現を解析した結果、系統ごとに大きな違いがあり、それが神経形態の違いと良く対応していることを見いだした。さらに、Sema3Aが軟骨形成細胞で発現することを明らかにし、軟骨細胞の位置の変化、すなわち骨格系の変化がSema3Aを介して神経系の形態とリンクしている可能性を示した。この研究はDevelopment Growth and Differentiation誌に投稿し受理された。また、小脳の進化についても連携研究者の菅原と解析を進め、小脳発生機構の起源が脊椎動物の共通祖先の段階にまで遡る可能性を示した。脳の最高中枢である終脳については、理化学研究所ならびに連携研究者らと共同で円口類のヤツメウナギと軟骨魚類のサメ、条鰭類のナマズ、鱗竜類のソメワケササクレヤモリとコーンスネークから終脳形成遺伝子の情報抽出を行った。その情報を用いて上記の動物胚で転写調節因子(Pax6, Emx1/2/3, CoupTF1, Sp8)や神経回路形成因子(Sema3A, Slit2, Robo2, ephrin等)の発現解析を進めている。魚類ではシグナル分子(FGF, SHH, BMP, WNT)の阻害剤を用いた機能解析を行い、円口類と軟骨魚類の系統で終脳形成機構に大きな違いがあることを見いだした。また、条鰭類では系統特異的な改変がなされている可能性を示した。これらについては今年度以降にゲノム編集による機能解析を試み、さらなる研究を進める。
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