研究課題/領域番号 |
17K07059
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
村上 安則 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (50342861)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳 / 遺伝子 / 進化 / 脊椎動物 / 発生 |
研究実績の概要 |
脳の多様化の要因を探ることを当該年度の目的とした。それを達成するため、新規な脳領域を進化させた系統として条鰭類のナマズと爬虫類のヤモリ・ヘビを用いた研究を進めた。本研究ではナマズ胚ならびにヤモリ胚のRNAseqによって見いだされた脳の多様化に関わる候補遺伝子について、①ナマズ類で独自に発達した脳中枢である顔面葉ならびに味覚に関わる神経要素の形成機構、②鱗竜類・主竜類・哺乳類の比較から得られた終脳の多様化に関わる候補分子、の機能解析を行った。ナマズ類については、、FgfやShh, Bmp, Wntなどシグナル因子の阻害による効果を調べた。その結果、ナマズの顔面葉の形成には、FGFシグナルとWntシグナルが関与していることが明らかになり、これらの遺伝子はさらに顔面葉に入力する味覚系神経回路の形成にも関与していることが判明した。このことは、新規な脳領域の形成には、通常の脳発生で用いられる遺伝子が使い回されている可能性を示唆している。 爬虫類については、哺乳類において新皮質のIV層に発現し、視床からの線維入力に関与しているCoup-TF1について比較発生学的な研究を行った結果、この遺伝子がヤモリ・ヘビの終脳では新皮質と相同ではない領域に発現していることが明らかになった。しかし興味深いことに、ヤモリやヘビでCoup-TF1が発現していたDVRという領域は、哺乳類と同じく視床の線維入力を受ける場所であることがわかった。このことは、哺乳類と爬虫類の終脳では、その機能を維持するために同じ遺伝子が使われている可能性を示唆している。また、カメ類のスッポンでは、この遺伝子はヤモリやヘビと同様にDVRに発現しており、さらに哺乳類の新皮質と相同な場所にも発現していることが明らかになった。このことは、羊膜類の進化の過程でCoup-TF1が様々な方式で使われてきたことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、本研究で研究予定であった円口類・両生類・羊膜類の研究に加えて、新規な脳領域の進化機構を探るため、ナマズ類で特殊化した神経系に注目して研究を行った。ナマズ類では味覚が著しく発達し、感覚器である味蕾が全身に分布すると共に、それらの情報を伝える顔面神経系が他の脊椎動物とは比較にならないほど発達している。それに伴い、脳には顔面葉という味覚中枢が生じている。こうした新規な神経要素がどのように進化してきたのかを調べるため、発生期のナマズを用いて顔面葉と顔面神経の発生を調べ、さらにFGFやSHHなどのシグナルを阻害してその影響を調べた。その結果、FGFシグナルとWNTシグナルが顔面葉と顔面神経の形成に関与していることが明らかになった。この結果の一部はZoological Lettersに投稿し、受理され現在印刷中である。この結果は当初の計画である終脳の発生機構の進化的変遷を明らかにする上で極めて重要である。また、脊椎動物のうち、脳の多様化が著しい条鰭類について、ハゼ類を用いた終脳形態の詳細な研究を行い、Journal of Comparative Neurologyに投稿し、受理された。さらにこれら一連の研究を含め脳の進化についての一般向け書籍の編集並びに著作を行い、一色出版より「遺伝子から解き明かす脳の不思議な世界」を出版した。これらの研究成果について、本年度は二度の招待講演にて発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、当初の予定通り、円口類・両生類・羊膜類を用いて、脳進化における祖先形質関連遺伝子と多様化関連遺伝子の解析を行い、終脳の起源と多様化に関わる分子基盤の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に用いる消耗品(キムワイプ類)の購入費として考えていた費用であるが、それら消耗品を今年度購入する必要がなくなったため、次年度に使用することにした。次年度は当該額を、当初の予定通り、消耗品の購入費に充てる。
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