研究課題/領域番号 |
17K07065
|
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
池田 弘子 星薬科大学, 薬学部, 教授 (70297844)
|
研究分担者 |
米持 奈央美 星薬科大学, 薬学部, 助手 (50779824)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 血糖調節 / ドパミン神経 / 中枢 / 自律神経 / 肝糖産生 |
研究実績の概要 |
糖尿病は、合併症として腎症や網膜症、神経障害などをひき起こすことから、患者のQOLを著しく低下させる。これまでに末梢組織に作用する様々な糖尿病治療薬が開発され、その治療に用いられているが、その効果は十分とは言い難い。最近になって、血糖調節は末梢組織のみならず中枢神経によっても制御される可能性が指摘されている。しかし、その機序は明らかではない。そこで本研究では、中枢神経による血糖調節機構を解明する目的で、中枢のドパミン神経に注目し、ドパミン神経が血糖調節においてどのような役割を果たすか明らかにすることを目的としている。 平成29年度に行った研究の結果、中枢のドパミンD1受容体は血糖調節に関与しないことが示された。一方、中枢のドパミンD2受容体は、その刺激によっても拮抗によっても血糖値を上昇させることが明らかになった。また、中枢のドパミンD2受容体の刺激は副交感神経を介して、ドパミンD2受容体の拮抗は交感神経を介して血糖上昇作用を示すことが明らかになった。さらに、中枢のドパミンD2受容体の刺激または拮抗は、いずれも肝糖産生を亢進させることが示唆された。 以上の本研究の結果より、中枢のドパミンD2受容体を刺激すると副交感神経が抑制され、これが肝糖産生を亢進することで血糖値が上昇することが示唆された。また、中枢のドパミンD2受容体を拮抗した場合には、交感神経が活性化することで肝糖産生が亢進し、血糖値が上昇することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度はほぼ計画通りに研究を実施し、以下の成果を得た。 まず、中枢のドパミン受容体が血糖調節に関与するか検討した。ドパミンD1受容体作動薬のSKF 38393または拮抗薬のSCH 23390を脳室内投与しても血糖値は変化しなかった。一方、D2受容体作動薬のquinpiroleまたは拮抗薬のl-sulpirideの投与は、いずれも血糖値を上昇させた。この結果から、中枢のドパミンD2受容体が血糖調節に関与することが示された。 次に、この血糖上昇作用が自律神経を介するか検討した。α2(yohimbine)またはβ2(ICI-118,551)受容体拮抗薬を末梢投与したところ、quinpiroleの血糖上昇作用は変化しなかったが、l-sulpirideの血糖上昇作用は抑制された。一方、迷走神経肝枝を切断したところ、quinpiroleの血糖上昇作用は抑制されたが、l-sulpirideの血糖上昇作用は変化しなかった。この結果から、中枢のドパミンD2受容体の刺激は副交感神経を介して、D2受容体の拮抗は交感神経を介して血糖上昇作用を示すことが明らかになった。 血糖上昇作用において肝糖産生が重要であることから、中枢のD2受容体による血糖上昇作用に肝糖産生の亢進が関与するか検討した。Quinpiroleまたはl-sulpirideの投与により、肝糖産生酵素であるG6PaseおよびPEPCKのmRNA発現量が増加した。一方、肝臓のグリコーゲン量は、quinpiroleの投与により減少したが、l-sulpirideでは変化しなかった。この結果から、中枢のドパミンD2受容体の刺激または拮抗は、肝糖産生を亢進させることが示唆された。 以上の結果より、中枢のドパミンD2受容体の刺激は副交感神経を、D2受容体の拮抗は交感神経を介して肝糖産生を亢進させることにより血糖値を上昇させることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究成果より、中枢のドパミンD2受容体の刺激または拮抗は、それぞれ異なる経路を介して肝糖産生を亢進し、血糖値を上昇させることが明らかになった。末梢組織による血糖調節は、肝臓のみならず、膵臓から分泌されるインスリンやグルカゴンによっても制御される。そこで、平成30年度は、血中のインスリンやグルカゴン濃度が、中枢のドパミンD2受容体の刺激または拮抗により変化するかELISA法を用いて明らかにする。 一方、中枢では様々な部位にドパミン神経が投射し、受容体が存在する。本研究では、平成29年度に明らかにしたドパミンD2受容体による作用が、どの脳部位を介して発現するのかを明らかにする。具体的には、中脳辺縁系ドパミン神経の投射先である側坐核、血糖調節に重要な視床下部のうち、自律神経を制御するとされる視床下部外側野、視床下部腹内側核、視床下部室傍核にquinpiroleまたはl-sulpirideを投与し、血糖値が上昇するか測定する。これらの脳部位への投与により血糖値が変化した場合には、ドパミンD2受容体Creマウスの当該脳部位にアデノ随伴ウイルス(AAV-hM3DqまたはAAV-hM4Di)を投与してDREADD法を行い、当該脳部位が血糖調節に関与することを明らかにする。 さらに、中枢のドパミンD2受容体による血糖調節機構が糖尿病時にどのように変化するか検討する。具体的には、1型糖尿病モデルであるstreptozotocin誘発糖尿病マウス、2型糖尿病を呈する食餌誘発性肥満(DIO)マウスに、quinpiroleまたはl-sulpirideを投与し、その血糖上昇作用が変化するか明らかにする。変化が認められた場合には、その変化がどのような機序によるものか明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも効率よく実験を進められたことで少し消耗品が少なく済んだことや、一部の試薬をキャンペーン価格で購入することができたことから、次年度使用額が生じた。一方で、実験動物など一部の消耗品は平成30年4月に値上げしたことから、ここで発生した助成金を平成30年度の予算とあわせることで、当初の計画通りに実験を進めることができると考えている。
|