糖尿病による慢性的な高血糖状態は様々な合併症をひき起こし、患者のQOLを著しく低下させることから、糖尿病の治療において血糖値を適切に保つことが重要である。現在までに数多くの糖尿病治療薬が開発されてきたが、その効果は十分ではなく、さらなる血糖調節機構の解明が必要である。このような背景から、申請者は、中枢神経による血糖調節に注目し、これまで中枢のドパミン神経が血糖調節にどのような役割を果たすか明らかにしてきた。 2017~2018年度の研究の結果、中枢のドパミンD2受容体は肝糖産生の亢進を介して血糖値を上昇させることが明らかになった。そこで、2019年度には、中枢のドパミンD2受容体による血糖調節機構が、糖尿病時にどのように変化するか検討した。その結果、1型糖尿病モデルであるstreptozotocin誘発糖尿病マウスでは中枢のドパミンD2受容体による血糖上昇作用が消失し、肝糖産生の亢進も認められなかった。また、血糖調節に重要な役割を果たす視床下部におけるドパミンD2受容体の発現が低下していることが示唆された。これらの結果から、1型糖尿病では、視床下部のドパミンD2受容体数が減少することにより、肝糖産生の亢進がおこらず、血糖上昇作用が認められないことが示唆された。一方、2型糖尿病を呈する食餌誘発性肥満マウスでは、中枢のドパミンD2受容体による血糖調節は、対照マウスと比べて変化がなかった。 以上の結果から、中枢のドパミンD2受容体を介した血糖調節は、1型糖尿病において変化することが示唆された。本研究の結果より、糖尿病時には、末梢組織やホルモンによる血糖調節機構の変化のみならず、中枢神経による血糖調節機構も変化することが考えられる。
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