本研究の目的は、社会的つながりの形成された親鳥の存在が、幼鳥の音声模倣学習を促進するしくみを明らかにすることである。これまでに、幼鳥における中脳VTA・SNcのニューロンが親鳥の歌に対して聴覚応答を示し、親鳥の存在下でその応答が顕著に増強されることを見出してきた。このニューロンの機能を理解するためには、ニューロンの細胞タイプを同定することが重要である。そこで、記録したニューロンのスパイク波形・自発発火頻度・ドーパミンアゴニストを使った薬理実験によって、ニューロンタイプの分類を試みた。その結果、親鳥の存在によって聴覚応答が増強されるニューロンの多くがドーパミン細胞の性質を示すことが明らかになった。このことから、親鳥が存在する状況で幼鳥が歌を聴くとドーパミン細胞が顕著に活動し、その投射先にドーパミンが放出されることが示唆された。 これまでに、聴覚野におけるニューロンの聴覚応答がドーパミン作動薬によって増強されることを生理実験により明らかにしてきた。そこで、VTA/SNcのニューロンが聴覚野に実際に投射しているかどうかを解剖・組織実験により検証した。大脳の聴覚野に逆行性トレーサーを注入することで聴覚野に対する投射ニューロンを同定し、免疫組織化学実験によってVTA/SNcのドーパミン細胞を標識した。その結果、VTA/SNcのドーパミン細胞には逆行性トレーサー陽性の細胞が少数ながら存在すること見出した。従って、VTA/SNcのドーパミン細胞が聴覚野に投射し、親鳥存在下でドーパミンを放出することで聴覚応答を増強することが示唆された。
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