研究実績の概要 |
体内の成長因子の多くはその前駆体のプロセッシングにより活性型に変換されるが、その翻訳後メカニズムの詳細については十分に解明が進んでいなかった。申請者の研究グループは、神経栄養因子BDNFの前駆体proBDNFがプロテアーゼ切断を受けたとき、活性型BDNF(図1白)と同時に産生されるプロセッシング副産物(図1黒)が内在的に存在することを見出しこの分子をBDNF pro-peptideと命名した(Mizui et al., PNAS, 2015)。 本研究ではBDNF pro-peptideは脳脊髄液や血中に含まれることから、本研究ではBDNF pro-peptideとうつ病の関係を検証した。最初にBDNFプロペプチドがヒトCSFに存在し、ウエスタンブロッティング法により簡便に検出可能であることを確認した。次に、27人の統合失調症患者、18人の大うつ病性障害(MDD)、および27人の健康な対照において、CSF濃度を調べた(年齢および性別が近い被験者を準備)。男性と女性を別々に調べたところ、MDDの男性ではBDNF pro-peptideのCSF濃度が男性のコントロールよりも有意に低いことが見出された(p = 0.047)。しかしこの違いは女性の被験者では見出されなかった。これらの結果は、特に男性においてCSF中BDNF pro-peptideレベルの低下がMDDと関連することを示唆している。以上の研究成果は論文発表したが(Mizui et al、2019、Cerebrospinal fluid BDNF pro-peptide levels in major depressive disorder and schizophrenia、Journal of Psychiatric Research)、BDNF pro-peptideは脳脊髄液中で量的個人差が少なく測定も簡便であるため、今後はバイオマーカーとして臨床学的研究への応用を目指す。
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