研究課題/領域番号 |
17K07078
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
高山 千利 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60197217)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | γ-アミノ酪酸(GABA) / グリシン / ワーラー変性 / K+,C1-共輸送体(KCC2) / 疼痛行動解析 / ミクログリア / 脛骨神経 / 腓骨神経 |
研究実績の概要 |
神経障害性疼痛は、神経損傷後、長期間にわたって機械的刺激に対する過剰な痛みが持続する疾患で、世界的な問題となっている。我々は、その発生メカニズムの解析と治療法の探索を目的として、本年度は以下の解析を行った。 C57/BLマウスを用いて、脛骨神経結紮モデルと脛骨神経切断モデルを作成し、疼痛変化、神経の病理組織像の変化、GABA・グリシンシグナル関連分子の発現変化、ミクログリアの経時的変化を解析した。その結果、結紮モデルでは、3か月以上に渡って、腓骨神経領域にアロジニアが認められた。病理組織学的には、早期にすべての軸索が変性し、時間とともに軸索再生が認められたが、90日経過しても、変性軸索が認められた。GABA・グリシンシグナルに関係する分子では、プレシナプスの分布、受容体タンパク質の分布に変化は認められなかった。一方、GABA・グリシンの作用を抑制性に導くK,Cl供輸送体(KCC2)の分布が優位に減少した。この変化は、3か月経過しても継続していた。加えて、ミクログリアの増殖、活性化も認められ、3か月継続していた。これらの変化は、結紮した脛骨神経に該当する領域のみならず、アロジニアが認められる腓骨神経の領域でも認められた。一方、脛骨神経切断モデルにおいても、上記の変化が認められた。しかし、手術後1か月を経過すると、徐々に回復していった。これらのことから、以下のことが明らかになった。①結紮モデルの方が、慢性疼痛のモデルとして適している。②神経障害がミクログリアの増殖を誘導し、それから分泌されると考えられるBDNFを介してKCC2の発現を抑制し、その結果二次知覚ニューロンの細胞内塩化物イオン濃度の上昇を招き、GABA、グリシンの抑制性が低下し、最終的には、腓骨神経領域で知覚過敏が起こり、慢性疼痛が発症することが明らかになった。さらに、結紮モデルではこれらの変化が3か月間継続していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1年目の研究は、正常マウスにおける慢性疼痛発症のメカニズムの解明に関する実験がほぼ終了している。現在、論文としてまとめる準備をしているところである。2年目以降の遺伝子改変マウスを用いた解析の準備も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)正常マウスを用いた、慢性疼痛発生のメカニズムに関して、原著論文としてまとめ発表する。そのための追加実験を継続する。 (2)GABA伝達、グリシン伝達に関与する分子を改変させた動物を用いて、慢性疼痛モデルマウスを作製し、解析を行う予定です。予備的な研究結果として、痛覚が逆に過敏になっており、その原因の探索を行う予定です。 (3)さらに、GABA伝達、グリシン伝達に関与する分子に作用する薬物などを投与して、治療法の確立を進めて行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
正常マウスを使用する実験を、平成29年度当初の予定より早く終了させ、次年度予定している遺伝子改変マウスを用いた実験に使用する、実験動物数の増加、試薬の追加に充てるため。さらに、予定より論文投稿が速くなることが見込まれ、英文校正、投稿にかかる費用の増加が見込まれる。
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備考 |
琉球大学大学院医学研究科 分子解剖学講座ホームページ http://molanatomy.blogspot.jp/
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