研究課題
初年度は、マウス胎仔とニワトリ胚における視神経のオリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocygte precursor cell; OPC)の出現様式を比較した。また、爬虫類としてスッポンの胚を用いることを計画したことから、その脳の発生様式を調べて、マウスとニワトリと比較することを開始した。(1)マウス胎仔とニワトリ胚でのOPCの出現様式の違いについて:マウスでは胎齢12日目までに視索前野で視神経のOPCが出現することを明らかにしており、この時期にPDGFRa陽性細胞が出現する。視索前野はNkx5.2やNkx5.1が発現しており、マウスでは初期の視神経OPC/PDGFRa陽性細胞は、おおよそNkx5陽性領域から出現する。一方、ニワトリ胚では第三脳室底で視交叉上領域から視神経OPCが出現してくる。HHstage23~24という早期から、視交叉領域にはOlig2陽性細胞が出現し、これが視神経OPCになるものと考えられる。ニワトリ胚においても視索前野にはNkx5.1が発現しているが、この領域からはOPCは出現しない。さらに、OPCの分化誘導にはモルフォゲンであるShhが関わることが知られている。マウスではE12.5~E13.5においてNkx5.2陽性視索前野とShh発現領域とは重なっているが、ニワトリ胚のHHstgate30~31において、Shh発現領域とNkx5.1陽性領域とは近接しているものの、重なることはなかった。これらの結果から、①マウスとニワトリでは視索前野形成におけるShhのかかわりかた(ソースからの距離や濃度など)が異なること、②この領域形成の違いが視神経OPCの起源の種差に関わる可能性が出てきたこと、が示唆された。(2)スッポン胚の脳の発達様式:スッポンは孵卵55~60日で孵化する。その脳の形成をパラフィン切片を用いて明らかにしている(現在進行中)。
2: おおむね順調に進展している
視神経OPCの出現領域として、20年前の報告からニワトリ胚では視交叉上領域が知られており、一方マウスでは視索前野に由来することが明らかにされた。このような種差がどのような仕組みで起こるのかを明らかにする際に、まず、視神経OPCを誘導するShhやその受容体の発現パターンの違いが予想された。ニワトリ胚とマウス胎仔の前脳を用いて、これらの発現を調べたところ、両者で大きな違いは見いだされなかった。しかし、視神経OPCで発現するPDGFRαは、マウスでは視索前野で、ニワトリ胚では視交叉で早期から発現していた。そこで、視索前野で発現するNkx5.1もしくはNkx5.2の発現を調べると、これも両方の動物種において、視索前野において発現していた。しかし、ShhとNkx5の発現様式を比較すると、マウスでは両者が重なって発現しているのに対し、ニワトリ胚では前後軸上もしくは背腹軸上で隣接しているものの重なってはいなかった。このような、領域形成におけるモルフォゲンの微妙な違いが、視神経OPCの起源の違いに反映されていることが示唆された。ニワトリとマウスでは、前脳基底部や視床下部などは基本的にはよく似た構造であると考えられており、実際に視索前野では共通の転写因子が発現している。そのような中で、領域形成もしくはその誘導機構での種差が見出されたことは、この課題の今後への大きなヒントを与えてくれたのではないかと考えられる。
今後の研究プランは以下の通りである。(1)ニワトリ胚において、Shhを強制発現させたときにNkx5の発現がどのように変化するか、また視神経OPCの出現がどのように変わるかを調べる。これまでに、Shhの中和抗体を産生するハイブリドーマ5E1をニワトリ胚に注入して遺伝子発現を調べた。先行研究の報告の通り眼球の分化に異常がみられたが、PDGFRαの発現や陽性細胞の分布に大きな変化はみられていない。今後の大きな課題の一つである。Nkx5の発現とOPC出現についての種差を、明確に記載することを試みる。(2)スッポン胚の脳の形成様式と、視神経OPCの出現様式について、解析を継続する。脳の正常発生はパラフィン切片を作製により明らかにする。HE染色、ニッスル染色に加えて、GFAP、PLP、Olig2、Sox10、Shh、Patched1などの分子発現も免疫組織化学染色と、in situ hybridizationにより調べる。(3)新しい方向として、3D-SEMを用いて視神経OPCの形態を解析する。まず、マウス視神経を用いて解析し、順次スッポン、ニワトリ胚と解析を続ける。この解析を通して、視神経OPCの細胞レベル・超微細形態レベルでの、種を超えて似ている形態と種差の有無を明らかにする。
注文していた比較的高額な消耗品(抗体など)が年度末まで届かなかった。注文を継続している。未納品の消耗品を購入する。
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