哺乳類としてマウス、鳥類としてニワトリ、爬虫類としてスッポンを用いて、視神経オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の出現様式を比較解剖学的に解析した。これを通して、脊椎動物もしくは羊膜類における脳形成の多様性の一端を明らかにすることを目的とした。 マウスでは視索前野、ニワトリでは視交叉上領域からOPCが出現することを明らかにしてきた。爬虫類の一種であるスッポン胚では、Olig2を発現する細胞(OPCと考えられる)は、視交叉上領域や視索前野など比較的広い範囲から出現する。一方、より特異性の高いOPCマーカーであるPDGFRaは、視索前野には陽性細胞がみられたが視交叉上領域には発現しなかった。したがって、スッポン胚では視交叉上領域はOPC産生領域として大きな貢献はしていないことが示唆された。 誘導シグナルであるソニックヘッジホッグ(Shh)の発現も、スッポン胚では脳室面のみならず腹側終脳の実質内で広く発現していた。Olig2陽性細胞は、Shhの受容体であるPtc1陽性領域の近傍から出現していることは、3つの生物種で一致していた。また、3つの生物種とも、視索前野では転写因子のNkx5が発現しており、領域マーカーが種を超えて保存されていることさ示された。しかし、Nkx5陽性領域の近傍からOPCが出現するのはマウスとスッポンであり、ニワトリ胚ではOPCは見られなかった。 以上の結果から、脳の領域形成そのものは種を超えて一定の共通性がみられたが、OPCを指標とした細胞産生については、動物種により多様性がみられた。誘導シグナルの多様性と領域形成ならびに細胞誘導の仕組みとの間には、今後の課題となる未知のメカニズムが介在していることが予想された。
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