研究課題/領域番号 |
17K07081
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
木村 晃久 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (20225022)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 視床網様核 / 外側膝状核 / 大脳皮質前頭前野 / 側坐核 / 聴覚 / 視覚 / 感覚統合 / 高次脳機能 |
研究実績の概要 |
視床網様核は、視床と大脳皮質から興奮性入力を受け、視床核に抑制投射し、視床-大脳皮質のループ回路の感覚情報処理と伝達を制御する。同種、あるいは、異種感覚情報(末梢感覚入力及び大脳皮質で処理された情報)、及び、高次脳機能(状況判断と行動の決定)が、視床網様核を介して、視床核の感覚情報処理に影響し、感覚情報の統合と選択、あるいは、注意を制御する神経機構が存在することを検証する研究を行っている。 当該年度では、視床網様核における同種(聴覚)感覚情報の干渉を調べる実験結果(異なる2音刺激に対する視床網様核細胞の反応が、周波数の違いと時間差に依存して顕著に変化する)の解析を終了し、学会で発表、視床網様核が様々な音情報を集約して、聴覚の知覚と注意の情報処理の時間構成を制御することを示唆する論文を作成中である。 高次脳機能と視床網様核の関係については、大脳皮質前頭前野、加えて、側坐核の活性化が視床網様核細胞の感覚反応に及ぼす影響を調べる実験を施行した。当該年度で大脳皮質前頭前野に関する実験は終了し、結果を研究会で報告した。現在、論文作成のため、結果の詳細を解析中である。側坐核に関する実験は継続中である。いずれの実験でも、活性化による聴覚及び視覚の1次、あるいは、高次の視床核に投射する視床網様核細胞の感覚反応に変化を認めたため、当該年度では、活性化による視床核細胞の感覚反応の変化を調べる新たな実験に着手し、現在、施行中である。 以上に加え、これまで視覚情報のみを処理すると考えられていた視覚の1次視床核(外側膝状核)で、聴覚刺激が3種の大脳皮質投射細胞(X、Y、W細胞)と抑制介在細胞の視覚反応に影響する現象を示す研究結果を国際専門誌に発表した。研究では、聴覚情報が、視床網様核を介して、聴覚が直接入力する経路が無い外側膝状核の視覚情報処理全体に影響する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
視床核において異種感覚情報が単一細胞の感覚反応に影響することを検証し、視床網様核を介し異種感覚情報が視床核細胞の特定種の感覚情報処理に影響することを示唆する研究については視覚の視床核に関する実験結果を論文に発表し、平成29年度の研究実施計画を達成した。視床網様核における同種感覚(聴覚)情報の干渉(異なる周波数の先行純音刺激による視床網様核細胞の音反応の変化)に関する平成29年度に実施する研究は、実験を終了し、データの解析を概ね終了、論文を作成中である。平成29年度に実施する予定であった大脳皮質前頭前野、扁桃体の活性化が視床網様核細胞の感覚(聴覚あるいは視覚)反応に及ぼす影響に関する研究(前年度実施予定の実験1)については、大脳皮質前頭前野の活性化についての実験を終了したが、扁桃体の活性化については、他者の研究結果が先行して発表されたため、実験の実施を保留している。視床網様核における同種(聴覚)感覚情報の干渉を調べる実験結果で、異種感覚情報の干渉のメカニズムが示唆されたため、平成30年度に実施予定の異種感覚刺激が視床網様核細胞に誘発するシナプス入力の相互干渉に関する実験の開始も保留した。代わって、高次脳機能が視床網様核を介して感覚情報処理に影響する神経機構を検証する研究として、側坐核の活性化が視床網様核細胞の感覚反応に及ぼす影響を調べる実験を施行した。加えて、大脳皮質前頭前野及び側坐核の活性化による視床核細胞の感覚反応の変化に関する実験を始めた。これらの実験を優先したため、前年度までに施行を予定していた覚醒動物の行動に伴う視床網様核及び視床核細胞の活動の変化に関する実験の開始が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、視床網様核における聴覚情報の干渉に関する研究結果を論文にまとめ国際専門誌への投稿を目指す。また、大脳皮質前頭前野の活性化が視床網様核細胞の感覚反応に及ぼす影響に関する実験結果を学会で発表し論文の作成にとりかかる。当該年度(2019年)に、扁桃体が視床網様核を介して大脳皮質の感覚反応に影響することを示す研究結果が先行したので、扁桃体の活性化が視床網様核細胞の感覚反応に及ぼす実験は留保する。また、異種感覚(視覚と聴覚)刺激が視床網様核細胞に誘発するシナプス入力の相互干渉を細胞内記録で調べ、視床網様核細胞における異種感覚の相互干渉のメカニズムの解明に取り組む研究(研究実施計画の実験2)から、高次脳機能(意図あるいは動機)による視床網様核を介した感覚の制御機構に関する研究に軸足を移して、大脳皮質前頭前野、あるいは、側坐核の活性化による視床網様核及び視床核細胞の感覚反応の変化に関する麻酔下の急性実験を優先して施行する。これらの実験の解析結果に基づいて、前年度以前から実施を予定していた覚醒動物の行動(高次脳機能の発現)をモニターしながら視床網様核及び視床核から神経活動を記録する実験に着手する。更に、聴覚(2018年の論文)と視覚(2020年の論文)の1次視床核が視床網様核を介して異種感覚の影響を受けることを示唆する研究結果を踏まえ、体性感覚の1次視床核に対する異種感覚(聴覚)の影響の有無を調べる実験を新たに施行し、1次視床核を含む感覚視床核が感覚種を超えて異種感覚情報を統合することを検証、視床網様核を含む視床が知覚と注意の制御機構の構成に深く関与することを提唱する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの研究実施計画に含まれていた大脳皮質前頭前野の活性化が視床網様核細胞の感覚反応に及ぼす影響に関する実験結果の解析に加え、側坐核の活性化の影響を調べる実験の実施と、外側膝状核に対する聴覚の影響に関する論文の修正と再投稿に時間を要したため、予定していた覚醒動物の神経活動を調べる研究で使用予定の実験機材の購入に至らず、助成金が残った。 残った助成金は、繰り延べになった当初の研究実施計画に沿って令和2年度以降に施行する実験機材の購入と消耗品の費用に使用する。
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