研究課題
本研究課題では、細胞系譜依存的な双方向性結合が生後の経験からどのような影響を受けるのかを検証し、神経回路形成における発生プログラミングと生後の経験の役割を解明することを目的とする。マウス大脳皮質バレル野4層における細胞系譜依存的な双方向性結合の形成には、3つのステップが存在する。生後9-11日に起こる一方向性のシナプス結合の形成、生後13-16日に起こる双方向性結合の増加、生後18-20日に起こる一方向性結合の減少である。この三段階において、経験依存性を調べるために、生後15日目から記録前日までマウスのヒゲを切ることによって、感覚入力を遮断した状態で飼育した。その結果、ヒゲを切ったグループでは、双方向性結合の増加や一方向性結合の減少が見られなかった。さらに、シナプス結合強度を比較したところ、ヒゲを切ったグループでは、シナプス結合強度が小さくなった。以上の結果より、細胞系譜依存的な双方向性結合およびシナプス強度には、生後の感覚入力が重要であることが明らかになった。これまでの研究により細胞系譜依存的な双方向性結合の形成には、クラスター型のプロトカドヘリンが関わることが分かっており、細胞系譜依存的な双方向性結合には遺伝子プログラミングの制御が関わることが示唆されてきたが、今回の結果により、生後の感覚入力も必要であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
これまで計画通りに進んでいる。これまでに確率した手法を用いることで、計画通り遂行することができると予想される。
今後は、同一細胞系譜の神経細胞間に形成される感覚入力依存的な双方向性結合の分子基盤を明らかにするために、グルタミン酸受容体であるNMDA型受容体に着目し、実験を進める。NMDA型受容体を欠損したマウスからiPS細胞を樹立し、野生型マウスの胚盤胞に移植することで、キメラマウスを作製する。そのキメラマウスから脳スライス標本を作製し、NMDA型受容体欠損神経細胞からホールセル記録を行い、細胞系譜依存的な双方向性結合の有無を検証する。
次年度に行う実験に新たに購入する試薬が増えたため。
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Sci Rep.
巻: Mar 5;9(1) ページ: :3445
10.1038/s41598-019-38910-2.