研究課題
多発性硬化症(MS)は炎症細胞の浸潤とともに髄鞘が傷害され、再発により症状が増悪する。しかしながら、根治療法の糸口が見えていない。我々は髄鞘構成タンパクであるMBPの構造異常の変化が本疾患の再発に関与している可能性を見出している。本研究ではマウスMSモデルならびに培養細胞を用いてMBPの構造変化に伴う髄鞘の異常形成機構の解明とその制御法の開発を目指している。平成30年度は平成29年度に引き続き、研究計画に沿って研究を遂行した。研究代表者が平成30年4月に異動となり、研究遂行の遅れを当初心配したが、概ね計画の通りに遂行できている。平成30年度は小胞体ストレス(ERストレス)によって誘導される21kDa MBPの発現誘導に関与する細胞内シグナル伝達の解析を主に行った。我々が独自に樹立したES細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は甲状腺ホルモンであるT3を添加することによってオリゴデンドロサイト(OL)に分化する。そこで、このOLに小胞体ストレス誘導座いであるtunicamycinを添加すると、OLが異常に肥大することを見出し、MBPの発現誘導に強く関与するfynのリン酸化によって21kD MBPが誘導されることを明らかにした。また、小胞体分子シャペロンGRP78/Bip選択的誘導剤であるBIXを投与するとMBPの変性が抑制されることを明らかにした。また、細胞の肥大化も抑制された。以上のことから、21kDa MBPはERストレスによって構造異常が惹起され、MBPの機能異常によってオリゴデンドロサイトの異常な髄鞘形成が惹起されている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に沿って研究は進んでおり、得られた結果も想定範囲内のものであり、計画を大幅に変更することなく、予定通りに研究を実施できている。
令和元年度はこれまでに得られた結果を元に実際にin vivoの病態モデルで検討する。いくつか想定される技術的な課題はあるが、進行が遅れないよう、十分準備しながら進めていく予定である。
研究代表者が平成30年4月1日付で旭川医科大学から秋田大学への異動があり、研究室のセットアップ等に少し時間を要した。また異動に伴い、機器を新たに購入する必要性が考えられ、平成29年度からの繰り越し金もあった。実際、平成29年度に予定していたin vitroの実験に用いる機器や抗体等の試薬の購入を行った。一方、令和元年度に実験を計画しているin vivoでの実験に使用する機器・試薬・消耗品等は今後購入する必要があり、令和元年度の予算では不足する可能性が見込まれるため、次年度使用額とした。
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