プリオン病では、主に中枢神経系に異常プリオン蛋白が沈着するが、近年、全身臓器においても異常プリオン蛋白の沈着が同定された。しかし、その詳細は未だ明らかにされていない。本研究では、各種プリオン病の全身臓器におけるプリオン蛋白の組織学的・蛋白生化学的な検討を行った。組織学的な検討にて、複数の孤発性プリオン病と遺伝性プリオン病(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病)の下垂体前葉にプリオン蛋白陽性像を同定した。特に成長ホルモン産生細胞においてプリオン蛋白の陽性所見は強かった。プロテオミクス解析においても、下垂体にプリオン蛋白が含まれている事が証明された。通常の神経組織においては、western blotにて無糖鎖型、一糖鎖型、二糖鎖型などの3種類のプリオン蛋白が示される。しかし、下垂体サンプルにおいては、通常よりも高い分子量にスメア状のシグナルがみられ、これらは過剰な糖鎖修飾によるものであり、下垂体に特徴的な所見であった。これらの所見は非プリオン病症例においても同様であり、下垂体前葉におけるプリオン蛋白の一般的な性状であると思われた。PK処理後のサンプルからは、プリオン病においてtype 1 プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白(PrPres)が示された。非プリオン病症例の下垂体ではPrPresは同定されなかった。ヒトの内分泌にプリオン蛋白が関与している事を示唆し、またプリオン病症例においては下垂体組織にPrPresが含まれており感染源になるうる事も示した。これらは新規の所見であり、英文論文を作成し採用された。その他として、組織学的検索により膵ランゲルハンス島や皮膚、筋、末梢神経にもプリオン蛋白沈着を同定した。
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