研究課題/領域番号 |
17K07098
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松本 弦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 講師 (50415303)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 選択的オートファジー / p62/sqstm1 / アシルドーパミン / アグリソーム |
研究実績の概要 |
神経細胞は分裂することなくヒトでは100年以上も生き続ける特異な細胞である。このような神経細胞の長寿命はグリア細胞によって担保されるため、神経細胞は栄養飢餓状態に陥ることがないと考えられている。そのため神経系のオートファジーによるタンパク質分解は恒常的オートファジーによるものが主となり、特定の分解基質を選択的に分解する選択的オートファジーによると考えられる。選択的オートファジーでは、オートファジーレセプターが分解基質の選択性を決定する。ユビキチン化されてたタンパク質の選択性は6種類のユビキチン依存性オートファジーレセプターが関与することが報告されているが、p62/sqstm1はそのなかでも中心的な役割を果たすオートファジーレセプターである。本研究では、p62の発現量を増加させる内在性分子としてアシルドーパミンであるオレオイルドーパミンとアラキドニルドーパミンを同定し、これら内在性分子が神経系の培養細胞においてp62の遺伝子発現を誘導することを見出した。全てのユビキチン依存性オートファジーレセプターのmRNAの絶対量を培養細胞や初代培養神経細胞で測定してその絶対量を比較したところ、p62はオートファジーレセプターの約50%以上を占めており、Optineurin (OPTN)は全体の10%以下しかないこともわかった。このことは、選択的オートファジーにおいてp62が主要な役割を果たしていることを裏付ける。興味深いことに、アシルドーパミンはp62の発現誘導とは独立にアグリソーム形成も引き起こした。アシルドーパミンによるアグリソーム形成はグリア細胞で顕著に観察され、初代培養神経細胞では起こらなかった。これらの結果を論文としてまとめ、Sientific Reportsに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
選択的オートファジーの制御機構の一旦として脳内のアシルドーパミンによる促進効果が示唆された。そのため、神経細胞におけるオートファゴソーム形成ではなく、選択的オートファジー自体、特にアグリファジーの細胞内モニターシステムとしての実験系の確立が必須となってきた。選択的オートファジーはオートファゴソーム形成とオートファジーレセプターによる基質認識が独立して起こるが、p62は基質と結合してセクエストソームと呼ばれる顆粒状の構造物を形成し、その構造上でオートファゴソームが伸張していくと考えられている。p62が安定なセクエストソームを形成するためにはS403のリン酸が必須であるが、そのS403リン酸化を制御することで選択的オートファジーをコントロールできると考えられる。アグリファジーをモニターするシステム構築の一環として、タウタンパク質の細胞内凝集体を恒常的に維持する細胞株を構築し、アグリファジーによる凝集体分解を評価するシステムを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
神経系の培養細胞において、選択的オートファジーはp62のリン酸化制御によりコントロールできると考えられるため、リン酸化を促進する化合物を探索し、それら化合物による選択的オートファジーの促進効果を評価するために、新規のアグリファジーモニターシステムを開発する。このシステムにより、選択的オートファジーが評価できるようになれば、アグリファジーによる凝集性タンパク質の分解促進につながると考えられ、またアグリファジー促進の分子機構の探索によりアグリファジー誘導の分子基盤を明らかにできると思われる。また、アグリファジー評価系として開発したタウ凝集細胞株による、凝集体分解機構の解明も行っていく。
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