研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症患者は、対人交流や意思の疎通が様々なコンテクストで困難であり、また興味や活動に限定的かつ繰り返し傾向が認められる(米国DSM-5)。自閉スペクトラム症をはじめとする神経発達症では、ほとんどの場合明確な病因や原因遺伝子が特定できるわけではなく、環境要因と遺伝要因の複雑な相互作用により発症すると考えられている。病態生理を再現するモデル動物の作製は、臨床応用や創薬による治療を見据えたトランスレーショナルリサーチの実施のためにたいへん重要であり、わが国発の自閉症モデル動物の知見として、ヒト疾患で重複がみられるヒト遺伝子座をゲノムに埋め込んだマウスが報告されている(Nakatani et al., 2009 Cell)。有益な疾患モデルマウスを開発するためには発症までの過程で共通にみられる「中間表現型」に注目する事が鍵であり、幅広いスペクトラムがみられる自閉症ではなおさら重要である。 そこで本研究では、自閉スペクトラム症に共通して認められる「中間表現型」に着目することで、疾患モデルマウスを作製し発症に至る回路機構の解明を実施した。多種多様な症状がみられる自閉スペクトラム症に至るまでの共通の経路として、GABAニューロンの機能不全と転写因子FoxG1「量」の異常が昨年明らかにされた。実際、ヒトではFoxG1「量」による制御が重要であり遺伝子変異による増加(重複)、減少(点変異)いずれの場合も自閉症FOXG1症候群を発症する。そこで、FoxG1量を「増加減少」操作する遺伝学的手法を新たに開発し、自閉スペクトラム症に共通の「中間表現型」をモデルしたマウスを作製した。個体行動、脳波活動、局所回路レベルでの解析から、興奮と抑制による回路発症機構の理解を深め、自閉症モデルマウスの樹立を行なった。
|