研究課題
脊髄小脳失調症(SCA)は、小脳性の運動失調を生じる遺伝性の神経変性疾患である。この疾患は、成人後の中年期以降で発症することが多く、現在のところ、運動機能を効果的に回復させる治療法が見つかっていない指定難病の希少疾患である。申請者は、既承認薬であり筋弛緩剤として臨床利用されているbaclofen (GABAb受容体の活性化薬)の投与と運動トレーニング(リハビリ)を組み合わせると、SCAモデルマウスの運動機能が改善されることを見出した。これは、SCA患者の運動機能を改善するには活動依存的なbaclofenの効果が非常に重要であることを示唆するが、その詳細なメカニズムは不明である。そこで、本研究では、活動依存的ニューロン標識法を用いてバクロフェンがSCAマウスに運動機能改善効果をもたらすメカニズムを検討することを試みた。本年度では、神経活動依存的プロモーターであるESAREの下流に発現期間の短いdGFPを連結したAAVベクター(AAV-ESARE-dGFP)をマウスの小脳に接種し、運動トレーニングによって標識される小脳の神経細胞から記録を行い、電気生理学的解析を行うことを試みた。しかしながら、運動トレーニングによる小脳神経細胞の標識は非常に効率が悪く、また、トレーニングなしでも標識される場合もあり個体間のばらつきが多いことも明らかとなり、電気生理学的記録は困難であることが判明した。そこで、小脳での神経活動依存的ニューロン標識法を見直し、今後は薬剤誘導性遺伝子発現の技術と活動依存的遺伝子発現技術を組み合わせた方法を小脳で試すことを考えている。
3: やや遅れている
AAV-ESARE-dGFPを用いた活動依存的神経細胞標識法は、視覚刺激による大脳視覚野での標識はうまくいくものの、運動トレーニングによる小脳での活動依存的神経細胞の標識は、効率が非常に悪く、個体間のばらつきも多いことが判明した。そのため、小脳での活動依存的神経細胞の標識方法を見直す必要が生じてきたため、計画よりもやや遅れていると判断した。
AAV-ESARE-dGFPを用いた活動依存的神経細胞標識法は、小脳ではマーカーであるdGFPの発現が非常に弱いと考えられる。そこで、今後は、非常に強力なプロモーターであるCBh promoterとTamoxifenを用いた薬剤誘導性遺伝子発現方法に活動依存的遺伝子発現方法を組み合わせ、Tamoxifenが体内に存在し、かつ運動トレーニングにより神経活動が生じた細胞にのみ、マーカーであるRFPが強力なCBh promoterの制御下で安定して発現するという標識法を小脳で試みる。
小脳での活動依存的標識法の効率が悪く、個体間のばらつきが多いことも判明したため、パッチクランプ法を用いた電気生理学的解析やmRNA採取による遺伝子発現解析などを進めることができなかった。その分、次年度で薬剤誘導性遺伝子発現法と活動依存的遺伝子発現法を組み合わせた方法など、小脳でうまく働く活動依存的標識法を探索する費用に使用する予定であり、うまくいった場合、さらに解析を進める予定である。
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J Neurosci
巻: 39(32) ページ: 6339-6353
10.1523/JNEUROSCI.2002-18.2019
https://www.gunma-u.ac.jp/information/54661
https://www.med.gunma-u.ac.jp/newsrelease/6209.html