研究実績の概要 |
Pattern separationの中枢は計算論の立場から海馬歯状回であることが示唆されている(Rolls, Hippocampus 1996)。空間的なpattern separationタスクを用いて、学習後のラット海馬歯状回を破壊すると類似した空間の分離が難しくなり、海馬CA領域の破壊では分離が可能であったことから歯状回が空間弁別に重要な役割を果たすことが示された(Gilbert et al., Hippocampus 2001)。ヒトの脳機能画像研究からも異なる刺激を分離する際に歯状回が活性化されることが示された(Bakker et al., Science 2008)。さらにLTP成立に関与するNMDA受容体の歯状回特異的欠損マウスの解析より、歯状回LTPは空間弁別に必要であり、空間認知・定位には必要でないことが示され(McHugh et al., Science 2007)、空間弁別の基盤となる分子メカニズムの解明が期待されている。我々は、重合性ヌクレオチド結合蛋白質セプチン細胞骨格欠損マウスが正常な空間定位能力を持つ一方で、異なる形状の空間の弁別能力を欠くことを見出した。しかしながら、発生過程からのセプチン慢性欠損マウスを使用した実験を進めており領域特異性については確認出来ていない。そこで本研究ではセプチン欠損/野生型マウスの歯状回における局所的セプチン補填/枯渇が空間弁別障害を救済/再現するかを精査することを目的とした。 実験の結果、歯状回においてセプチンが発現することが空間弁別に必要であることと、セプチン欠損マウスの空間弁別障害の正常化には歯状回に限局したセプチンの発現で十分であることが検証できた。
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