研究課題/領域番号 |
17K07109
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菅生 紀之 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授(常勤) (20372625)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子・細胞・神経生物学 |
研究実績の概要 |
我々の研究グループが先駆けて構築した神経細胞における核内1分子イメージング解析の手法によって、神経活動依存的な転写因子動態を明らかにしてきたが、動態と生理的意義には不明な点が多く残されている。本研究は、マウス及びヒト神経細胞において転写因子と特異的遺伝子座の相互作用、そこから産生される転写産物の量を1分子蛍光イメージングで同時に定量計測する。さらに、神経細胞分化におけるDNA脱メチル化を介した転写制御の動態解析をDNAポリメラーゼβに着目して進める。以上によって、核内分子動態から神経細胞分化の原理・法則性を理解することを目指す。 本年度は、(1)ヒト神経細胞での核内1分子イメージング解析を確立するために、ヒトiPS細胞から特定の神経細胞種を分化誘導する実験系として、ヒトiPS由来大脳オルガノイドの作製を試みた。発生期大脳皮質様の細胞構築として、Sox2陽性の神経前駆細胞からなる脳室帯様構造と最終分裂後の神経細胞から構成される皮質板様構造が観察され、特に皮質深層の神経細胞の分子マーカーTbr1やCtip2を時空間的に再現性良く発現する神経細胞を約40日程度の培養期間で作製することができた。(2)神経細胞分化過程でのDNA脱メチル化制御の動態を明らかにするために、大脳神経前駆細胞と神経細胞のゲノムおよびクロマチン構造を全ゲノムDNA塩基配列解析や免疫染色法により調べた。また、その開始因子の一つと考えられる分子の性状を解析することを試みた。(3)神経細胞分化におけるDNA脱メチル化制御においてDNAポリメラーゼβはゲノム安定性維持に不可欠であり、それが神経回路形成さらには学習・記憶といった脳機能の構築に繋がることを明らかにした。本研究成果に関して、研究論文を専門誌に投稿すると共にプレプリントをbioRxivに公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、実験はおおむね順調に進んでいる。しかし、イメージング解析は十分とは言えず継続する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、継続して転写動態のイメージング解析を行う。さらに、神経細胞分化におけるDNA脱メチル化機構を介したDNAポリメラーゼβの役割の解析を足がかりに転写動態解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定以上に基盤となる神経前駆細胞および神経細胞におけるゲノムおよびクロマチン構造を詳細に把握する必要性が生じ、DNA塩基配列解析や免疫染色法による実験を進めたが、その結果として想定以上の時間を要した。そのため、次の実験として予定していたイメージング解析の費用を次年度で使用することとなった。実験を継続して行い、その経費・研究発表の旅費・研究成果の発表に充てる予定である。
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